新聞・通信社が記事などのデータベース事業を展開するうえで、人権・プライバシーへの配慮、対応が大きな課題となっている。蓄積されたデータにより人権やプライバシーの侵害が起きないよう配慮する必要がある。しかし、記事データベースとしての価値や報道機関の役割を考えると、記事に登場する当事者からの要請であっても無制限に修正、削除はできない。データベースを公開する各社は、社内に委員会を設置し個々の事例を検討するほか、事件・事故に関する記事の公開を制限するなどの対応をとっている。
新聞協会の「新聞・通信社の電子・電波メディア現況調査」(2003年1月実施)によると、記事、写真、紙面イメージなどのデータベース事業に参入している新聞・通信社は32社となっている。
データベース上の人権保護に関しては、読売が1988年、後に不起訴となったり裁判で無罪判決を受けたりした逮捕記事に「続報注意」の印を付ける措置を実施。その後、多くの社がこれに続いた。
また、データベースの公開が一般に浸透するにつれ、刑を終えた事件当事者から「いつまでも逮捕記事が収録されていると、再就職の障害となるので削除してほしい」との要望や、事件・事故の被害者、遺族から「亡くなった親族の名前が、いつまでも掲載されているのは忍びない」といった声が多く寄せられるようになった。各社は個々の事例やガイドラインなどに則して、匿名への切り替え、記事の削除、公開期間の制限、見出しだけの公開などの措置をとっている。
毎日新聞社は過去一年間の記事検索ができるサービスのほか、87年以降の記事を検索できるデータベースを有料で公開している。記事データベースに関連し、問題が起きた時は社内の「個人情報保護委員会」で対応を検討。さらに、月一回「メディア審査会」を開き、委員会のメンバーに顧問弁護士を交え、人権・プライバシーに関する問題事例の報告を受けている。
日本経済新聞社は75年以降の記事を有料公開している。問題が起きた場合は関係部局で協議し、記事削除などの判断を下す。
今年4月に2000年からの写真、02年からの記事、紙面イメージの統合データベースを有料公開した茨城新聞社は、社内の「著作権検討委員会」で、記事を修正、削除する際の基準作りを検討している。個別に問題が起きた場合も委員会で検討するが、現在まで案件は出ていないという。
ガイドラインを作成している社もある。86年の記事から検索可能なサービスなどを有料公開している読売新聞社は2002年1月、社内に「電子メディア苦情処理委員会」を設置。同社がこれまでに公表している記述原則に準拠した内容に加え、記事削除などの基準を定めた「外販データベース、インターネットにおける個人情報保護のガイドライン」も、あわせて作成した。同委員会は、当事者などから削除等の要求があれば、ガイドラインを基に検討する。軽微な事件・事故は、一律に削除するシステム上の方策も模索しているが、まだ実施は難しいという。
92年以降のデータベースを有料公開している産経新聞社は、社内横断的組織「著作権・肖像権問題研究会」が2002年4月にガイドライン案を作成。これに沿って個々の事例を検討し、記事の削除などを行っている。
有料のデータベースで記事の公開期限を設けている社も多い。
88年以降の記事を有料公開している北海道新聞社は、微罪の記事に関しては人権に配慮して五年で削除する。98年以降の記事を有料公開する琉球新報社も事件・事故の記事は原則として約1年で非公開にしている。
共同通信社は88年以降の記事を有料で公開しているが、社会面向けの小さなニュースは原則として、掲載から5年間で自動的に削除される。
愛媛新聞社はデータベース自体の公開期間を5年と定めている。後に訂正が出された記事は、元の記事に修正を加えている。
中日新聞社は87年以降の記事を有料公開。問題が生じる恐れのある記事に印を付け、公開から一定年数が経過した記事を削除できるよう準備している。
84年以降の記事を有料公開する朝日新聞社は、現在は個々の事例に則して対応しているが、記事の出稿段階で「3年経過したら削除」などのタグを付けておくことまでは社内合意ができている。早ければ今秋にも開始する。同社では社内の「データプライバシー検討部会」が個々の事例に対応しつつ、基準作りを検討している。
事件・事故に関する記事は原則非公開としている社も、地方紙を中心に多い。
京都新聞社、神戸新聞社、中国新聞社は、商用データベースには大事件や公務員の汚職などを除き犯罪報道は掲載していない。91年以降の記事を有料公開している河北も、議員の汚職事件など、社会的に公開が容認されると判断した記事を除き、事件・事故の記事は非公開。八九年以降の記事を有料公開している西日本新聞社も、事件・事故の記事は原則として公開しない。
4月から図書館、自治体などに記事、写真、紙面イメージの統合データベースを有料公開、今秋からは一般個人会員への公開を予定している山陽新聞は、96年以降の記事を収録。問題が生じる恐れのある記事は本文を削除し、見出しだけを公開している。また、紙面イメージの公開は約3か月分に限定している。
95年以降の記事を有料公開している信濃毎日は、事件・事故の記事について、個人会員向けのデータベースは見出しだけ公開。日経テレコンを通じて提供しているデータベースでは見出し、本文とも非公開にしている。事件・事故を扱った記事の外部公開に当たっては、殺人、誘拐、強盗など大きな刑事事件、公共的な施設の火災など7項目のガイドラインを設けている。