<会長年頭あいさつ>
2006年の年頭にあたり、全国の報道関係者のみなさまに謹んで新年のごあいさつを申し上げます。
私は昨年12月の臨時会員総会で新聞協会会長に選任されました。箱島信一・前会長が辞任されてからの2か月間、会長不在の状態が続いたことには協会を代表しておわび申し上げます。と、同時に、今後は新聞協会会長として、新聞界が現在おかれている厳しい難局に全身全霊をかけて立ち向かうことをお約束したいと思います。
今、新聞界は外と内の両側から危機が押し寄せています。
まず、昨年11月、公正取引委員会は、新聞業をはじめ5分野の特殊指定について、本年6月までに見直す、との方針を明らかにしました。これに対し新聞協会は、「新聞の再販制度と特殊指定とは一対のものだ」との立場から、「現行規定の維持を強く求める」との声明を発表しました。文字・活字文化の重要な担い手であり、民主主義社会の健全な発展に欠くことのできない新聞は、再販制度とそれを実質的に保障する特殊指定によって支えられています。新聞協会は直ちに「新聞特殊指定プロジェクトチーム」を再販対策特別委員会のもとに設置し、公取委に対し特殊指定見直し方針の撤回を迫っていきます。
次は内なる危機です。
前会長辞任の原因ともなりました取材記者の虚偽メモ問題をはじめ、昨年は、ジャーナリズムへの信頼を揺るがす、取材の基本、記者倫理が問われる事件が相次ぎました。
繰り返しになりますが、新聞は民主主義社会を支える基盤であり、その成長の度合いをはかるバロメーターでもあります。しかし、「2005年 新聞の評価に関する読者調査」では、新聞を購読しない人が、30代、40代など中・高年層でも増え、はじめて全体の1割を超え、特に女性の「購読紙なし」の回答増が目をひきます。原因としては、景気動向のほか、ホームページや携帯電話などの情報携帯端末のウエートが増していることが考えられ、今回調査でも情報携帯端末から情報を得ている人は1999年調査の2倍以上となっています。一方で新聞への信頼度への好意的評価は前回調査から、わずかながら増えており、情報携帯端末からの情報等と比較し、信頼度の高いメディアとして新聞が位置づけられていることが分かります。それだけに、メディアスクラムいわゆる集団的過熱取材などで事件の被害にあわれた方や人権、プライバシーなどで読者の皆様からひんしゅくを買うような行為は厳に慎まなければなりません。
国民の知る権利を行使する報道機関として自らの襟をただし、読者の皆様からの信頼を取り戻すべく、取材活動を担う記者への教育、さらには記者倫理の確立に向け、会員全社の総力をあげ、取り組んでまいります。このような努力を重ね、新聞倫理をより向上させることが、人権擁護法案などの政府によるメディア規制の動きを食い止め、自由な取材・報道活動の維持につながると確信しております。
さて、世界に目を向けますと、各地で、依然としてテロ行為や武力紛争は相次ぎ、多くの尊い人命が奪われています。イラクでは、新憲法が制定されたものの、宗派・民族間の抗争は続いており、安定した政府の樹立に向け、イラク国民の苦しみは続いています。米国のブッシュ政権はイラク戦争の正当性をめぐり、米国内外の厳しい世論にさらされ、日本の自衛隊も撤退の時期を模索しながら派遣延長となりました。
また、地震や津波、暴風雨など人知を超える自然災害の脅威や、鳥インフルエンザへの防疫態勢の強化など、先進国、発展途上国を問わず、人々の命と健康をどのように守り、地球温暖化にどう対応していくのか、国境を越えた取り組みが求められています。
日本では、小泉首相率いる与党の圧勝となった総選挙を受け、一連の「小泉改革」が速度を増しています。国際協調の行方、産業構造の変化、少子高齢化の進展などを見据えたうえで、憲法、税制、年金など国の行く末を左右する問題についての幅広い国民的議論が必要です。また、マンションなどの耐震強度偽装や子どもを狙った犯罪が相次ぐなど、社会のセーフティネットへの信頼が大きく揺らいでいます。国全体が大きな曲がり角を迎えたこの時代、報道機関に課せられた使命は非常に重いといえるでしょう。
本年も厳しい課題は山積みではありますが、昨年の新聞週間の代表標語であります「『なぜ』『どうして』もっと知りたい新聞で」に込められた読者の期待に応えるよう、会員各社の力をあわせ、努力してまいる所存です。
新しい年が、明るい年となりますよう願うとともに、みなさまのご健勝と各社のご発展をお祈り申しあげ、年頭のごあいさつといたします。