セキュリティーロック付き中高層マンションで、1階ではなく階上の戸口まで新聞を配達できるようにしよう、という新聞協会の取り組みが成果を上げつつある。各新聞社が協力したこと、大規模マンション開発が増加したことも重なり、東京地区新聞公正取引協議会、関東地区新聞公正取引協議会の成功例は140件(マンション)を超した。関西でも、ニュースペーパー・デリバリー・サービスシステム(NDS)を取り入れ、約50件の階上配達を達成した。今後は、新築に比べ実現が難しいとされる既存物件や比較的規模の小さなマンションへの取り組みが課題となる。
日本の新聞は94.3%が戸別配達で直接読者の元に届けられている。これが、1部当たり人口2.44人という高い普及率を支えている。しかし、近年都市部を中心に入り口にセキュリティーロック付きのマンションが普及、新聞配達人がマンションの居住区域に立ち入れず、階上の各家庭の戸口まで新聞が配達できない状況が増えている。上層階から1階の郵便受けまで毎朝、新聞を取りに降りるのが面倒などの理由で、新聞を定期購読しない世帯が増えていた。勧誘もできないことから、普及率の低下も招いており、対策が求められていた。
新聞協会は2005年、販売委員会の下に「中高層マンション対策小委員会」を設置し、階上配達の実現に向け取り組み始めた
■イメージアップで成功
東京地区協は2005年5月「マンション対策実行委員会」を設置した。06〜07年に中高層マンションの完成が相次ぐことを視野に入れた。各新聞社間で、ディベロッパー(開発会社)の新築情報を共有することで、個別の社が単独で働きかけるより、より効果的にディベロッパーと交渉がすすめられ、成功事例を積み重ねた。06年度は8月以降だけで東京、関東地区協合わせ45件、07年度は97件の階上配達を実現した。
この背景に、読売東京の佐々木平開発部次長は、配達人がマンション内に入ることは、実は「防犯に役立つことを積極的に訴え、信頼を得てきた」ことを挙げる。入居者説明会や内覧会では過度な営業を避け、「礼儀作法や服装をきちんとした」ことが、新聞業界全体のイメージアップにもつながったと指摘する。
■NDSを導入
関西では06年1月、全国各紙と京都新聞、神戸新聞が開発・管理会社との交渉窓口となるNDSシステム西日本センターを設立した。後に、中日新聞も加わった。
NDSは、朝の4時から6時までなど、マンション内に立ち入るための鍵の使用時間を設定することができるため、新聞配達時にだけ解錠できるなど、安心のシステムである。
センターの理事長を務める朝日大阪の神崎正雄・営業開発部営業推進担当部長は「新聞業界を挙げて安心感を追究しつつ、購読者の利便性を図った」と話す。08年3月末までに約50件の階上配達を達成した。
■ICカード活用も
関東では、静脈認証システムやセキュリティーゲートなどを設けるマンションができるなど、今後もマンション住民の安全・安心の意識は高まると関係者は口をそろえる。
こうした課題の解決に向け三井不動産レジデンシャルが開発したシステムに注目が集まる。同システムは、ICカードや監視カメラを活用し、解錠を早朝など特定の時間帯に制限でき、紛失したカードでは解錠できないよう設定もできるため、階上配達を可能とする。09年9月に完成する東京・目黒のマンション(83戸)に初めて導入される。
既存物件への取り組みも課題に挙がる。階上配達の成功事例は増えているものの、新築で24時間有人管理型の大型マンションが多い。東京のマンションの70%程度はいまだに階上配達ができていないのが実態だ。既存物件は、住民総会などで多数の賛成を得る必要もあり、階上配達の実現が新築に比べ難しい。