日本新聞協会広告委員会が今年度「しあわせ」をテーマに実施した「新聞広告クリエーティブコンテスト」には、全国から1,069作品の応募がありました。たくさんのご応募をいただきありがとうございました。本コンテストは、若いクリエーターの皆さんに、新聞広告の可能性を広げるような独創的で斬新な作品を作っていただくために実施しています。クリエーターの副田高行、一倉宏、児島令子、佐野研二郎、服部一成、前田知巳の各氏と新聞協会広告委員会の正副委員長の10人による審査会を経て、最優秀賞をはじめとする5賞5作品を決定しました。桃太郎に父親を殺されたという鬼の子どもを描いた最優秀賞の「めでたし、めでたし?」は、審査委員から「鬼の子どもにとってはそうなんだ、と読み手の心に小石を投げるような作品だ」「“逆からの視点”で幸せとは何かを考えさせる発想が抜きんでている」「新聞協会が選ぶ広告コンテストのグランプリにふさわしい、エッジの効いた作品だ」と高く評価されました。
入賞作品は11月から日本新聞博物館(横浜市中区)で展示します。
また審査会では、「入選から漏れた作品もぜひ多くの人に見てもらいたい」との提案があり、今年も最終審査に残った12作品を入賞作品とともに「新聞広告の日」に合わせてプレスセンタービル1階(千代田区内幸町)で展示するとともに、本サイト上で紹介することとしました(→こちらからご覧いただけます)。
「めでたし、めでたし?」 山﨑博司さん(博報堂)
○コメント ○プロフィル |
「いつも通り」 田中龍一さん(読売広告社) ○コメント ○プロフィル |
「冷蔵庫にプリンをいれよう」 遠藤誠之さん(アルファ・シリウス)
○コメント ○プロフィル |
「しあわせはワンサイズです。」 松下由希子さん(東京芸術大学)
○コメント ○プロフィル |
「21位」 三宅宏明さん(山口大学大学院/写真左) 共同制作者=油井美奈子さん(山口大学大学院/写真右)
○コメント ○プロフィル 1989年生まれ。山口大学大学院理工学研究科在学中。 |
「手をつなごう」代表=大岩千夏さん▽「それぞれのしあわせ」代表=岡優一さん▽「幸せになるために不幸を作ってはいけない」木村友美さん▽「シアワセは大きさではないのです。」代表=黒岩美桜さん▽「80年の私小説」代表=笹尾進さん▽「家族の柱」代表=鈴木亜美さん▽「HAPPY END」田極弘規さん▽「日本人のコーフク度」=田中秀吾さん▽「ほめよう」佐藤智明さん▽「世界一幸せな国」代表=永野広志さん▽「選択肢」代表=藤田ヒロさん▽「しあわせな人生」代表=山倉研志さん
(→作品はこちらからご覧いただけます)
何が「しあわせ」かは個々人で違い、言葉や形にするのが難しいテーマだったと思います。桃太郎に父親を殺された鬼の子どもを描いた最優秀賞の作品は、目にした誰しもがふと立ち止まって考えるという点で、新聞協会の広告コンテストのグランプリにふさわしい、エッジの効いた作品でした。昨今、問題提起ができている広告が少ないように感じています。読者に新聞広告の価値を再認識してもらう意味でも、このコンテストには既存の価値観に一石を投じる役割を期待したいです。
形だけの幸せを考えた作品が多かった中、選考のふるいにかけてみればこれだけの優れた作品が残りました。最優秀賞は、ただ面白いとか、ただ上手にまとまっているというのではなく、とがっているところがよいですね。優秀賞の「いつも通り」は、見上げる青空と街の構図に福島を連想せざるを得ず、強烈なメッセージ性を感じます。コピー賞は、幸せが日常の中にあることを言い換えたコピーワークがなかなかのものでした。
今の若い人たちは、生まれた時から低成長経済の中で生きていますが、日常の身近なことに幸せを見つけていると感じました。それを新聞広告に仕立てる際に、表現の仕方や視点のもち方を工夫した、シンプルながら強い作品を選びました。最優秀賞は読み手の心に小石を投げるような作品でした。「いつも通り」の道路標識のバックにある青空は、3.11前の日本に戻りたい想いと戻ることの難しさへの暗示とも読める点がジャーナリスティックで評価しました。
今回初めて審査に加わりましたが、「しあわせ」からすぐに思いつくもの、例えば四つ葉のクローバーとか赤ちゃんといったステレオタイプのイメージではなく、どう見るか、という“視点の発見”が重要だったのではないかと感じています。逆説的な立ち位置から見えるものとして、最優秀賞の「鬼の子ども」が象徴的でした。選外ですが、作者本人の病から見える風景をドキュメンタリー的に仕上げている作品があり、新聞ならではの表現として深く印象に残りました。
幸せという言葉を発するのは、どこか気恥ずかしさを伴うものです。この気恥ずかしい「幸せ」をどう捉え、どう表現すれば読者に共感してもらえるのか、敏感に考えて作ったものが最後に残ったと思います。等身大の幸せをテーマにしたものがほとんどの中、選外の作品で、社会的視野の広さを感じさせるものや、幸せの捉え方がユニークなものがいくつかありましたが、コピーやデザインが未熟で訴える力が弱く、入選に至らなかったのが残念でした。
昔、「しあわせって何だっけ?」というヒットCMがあった。「しあわせ」という自分よがりな概念ほど、人と共有するのが難しいものはないかもしれない。最優秀賞は、そういう「しあわせ」そのもの矛盾感、勝ち負け感を観(み)る者の喉(のど)もとに突きつけるような作品だった。「広告制作者は、ある意味でジャーナリストであるべき」という見本だと思う。優秀賞の「いつも通り」と見比べてみると、より味わいが深くなる。「しあわせ」という状況は、常に「怖さ」と同居しているのだ。