「やさしいメディア」。これは、僕が尊敬するグラフィックデザイナー佐藤卓さんがある時、ポスターというメディアの可能性について語った言葉だ。CMや最近のコンテンツ動画などは視聴時間に支配されるが、ポスターは見る時間を自分でコントロールできる。だから一秒だけ見てもいいし、3時間見てもいい。なんて、やさしいメディアだ!と。僕はとても感動したことを覚えている。そういった観点で考えてみると、新聞広告は「超やさしいメディア」だ。メディアとの距離はもっと近くなのでディテールまで見てもらえる可能性が高いし、好きなものは取っておける。折ったっていい。なんてやさしいんだ。
スマホが情報の主役となった今、わざわざ紙面に広告を出すなんて、効率が悪い、コスパが悪い、そんな声もあるだろう。だが、それは大きな誤解だ。と僕は思う。新聞というメディアこそ、もっとも情報設計の本質に迫れる“相棒”となってくるのではないか。僕はその相棒に、今ふたつのことを常に期待している。
ひとつは、企業やブランドの「コミュニケーション人格」を明確にかたちづくる<プラットフォーム>である点。
メディアに対して写真やコピーを表面的に整えるだけでなく、「この企業はどういう声で、どんな表情で、なぜこの時代に、社会と話そうとしているのか?」。写真の温度感、フォント設計、言葉の硬さや柔らかさ。すべてのメディア展開する場合、<プラットフォーム>を緻密にデザインできる。ルールになる。情報の配置、余白の緊張、視線の導線といったすべての要素が絡まりあって、読み手の心に届く「ひとつの空気」として立ち現れる。それはブランドの空気感そのものである。
ふたつめは、「手段」として。
広告枠を1メディアと捉えるのでなく、その広告自体を話題にし、ニュースなどやSNSで二次的に世の中と対話する。ここを最終メディアとして捉えた場合、新聞広告は「手段」となる。僕が携わった資生堂2015元旦企業広告「50 selfies of Lady Gaga」(※)は、50枚集まったものを最終的な一枚絵とするメディアとしての視点を持った。だから、フォーマットが明快であり、ロゴを目一杯大きくしたのだ。
(※2015年の新聞広告大賞)
また、サントリー天然水は、20年後に水を交換してくれるという新聞広告でなく、「引き換え券」として考え、手段として役割へと変えた。なんて、やさしい相棒なんだ。姿は変えずとも、時代ごとにその立ち回りを軽快に時代を一緒に乗りこなしてくれる。いつの時代も一緒に楽しめるように、この相棒とずっと面白いことを考えていきたい。
小杉 幸一(こすぎ・こういち)氏
アートディレクター / クリエイティブディレクター / グラフィックデザイナー
博報堂を経て、onehappy設立。 「コミュニケーション人格」で企業や商品の人格を明快にし、クリエイティブディレクション、アートディレクションを行う。大阪万博「NTTパビリオン」、・onehappy代表。 「大阪万博NTTパビリオン」「SUNTORY特茶」「雪印メグミルクCI」 「パルコアラ」「東京グレートベアーズ」「VDRUG 都市部店舗デザイン/ PB開発」 「輝く人のSTARFLYER」「SUZUKI HUSTLER」「YMO40」「ガキの使いやあらへんで」など。 東京ADC賞、カンヌライオン デザイン部門GOLD、JAGDA新人賞、D&AD、NYADC、 ONESHOW、ACCグランプリ総務大臣賞 、 朝日新聞広告賞、ギャラクシー賞、など受賞。 多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科客員教授、 岡崎市市政ディレクター。