昨年12月26日に発生したスマトラ沖地震による津波は、インドネシア、スリランカなどインド洋沿岸諸国に甚大な被害を引き起こした。死者は22万5000人以上に達すると報じられ、外務省によると日本人の被災者も、1月19日現在で死者25人、安否不明者35人に上る。しかし、同省は一部を除き被災者の氏名を公表せず、死者は年齢、性別のみの公表にとどめている。安否不明者についても、同省に照会のあった人数から安否が確認できた人数を除いた数字を発表しているだけだ。この状況にメディア側からは、批判の声が上がっている。
外務省は基本的な考え方を、「外務省や現地の領事館が海外の日本人の死亡を確認し、外部に発表することは求められていないし、法でも定められていない」と説明している。
海外の事件・事故で日本人が死亡した場合、大抵の国では現地の警察や病院が、被害者の氏名、年齢、性別など、主にパスポートから得られる情報を発表する。外務省では通常、現地の当局が既に発表しており日本の報道機関から照会があることを遺族に説明し、発表の了解を得る。
しかし、今回のケースでは、津波により現地当局は機能しておらず、発表もない。外務省では、被災への関心の高さや公益性の観点から被災者の発表が必要だと考えたが、遺族の理解は得られず、当初は「邦人1名」などと発表し、報道各社から強い批判を浴びた。
そこで外務省は再度検討し、「社会通念に照らして遺族に公表理由を説明できる『外務省の責任の範囲』で発表できないかと考え、性別・年齢のみを発表することにした」という。
こうした匿名発表に、報道各社からは依然、不満の声が上がっている。事実を把握した上で、実名で報じるか、プライバシー保護に配慮して匿名にするかを自ら判断するというのがメディア側のスタンスだ。
メディア関係者は「本当かどうかは疑問だが、“遺族の要請”と言われると、反論しにくい」と話し、「われわれも遺族が嫌がることを無理に載せようとは思わないが、問題は情報を確認しようがないことだ。情報隠しの方便に使われかねない」と懸念する。
このほか
「匿名化が進み情報が抽象化することで、事実の検証ができなくなる。検証によって新たな情報が喚起され、確認の進展もあり得る」
「遺族の意向は尊重しなければならないが、人数だけでは被害の実態は描けない。命の重さは個々の犠牲者を描いてこそ伝わる」
「被害の全容を明らかにするには、一つずつ調べて積み上げなければならないが、それらの確定が難しく、全体像に迫るのに支障がある」と話す。同氏はまた「外務省の情報収集力の無さが出ているのではないか」
「これほどの規模の災害で、名前が公表されなかったことは記憶にない。これが特殊なケースなのかどうかは、いずれ検証しなくてはならない」
といった批判が上がっている。
今回の災害は、遠隔地で発生した上に被災地が広範にわたり、被災者もけた外れに多い。その点で極めて特殊なケースであるとの認識は報道側にもあるが、一方で、「外務省に限って言えば、数年前から匿名発表が多くなってきた。米中枢同時テロの時に非常に目立った」「警察や消防の広報でも匿名化の傾向はある。その最たるものが外務省だ」との指摘もある。