三浦元社長か容疑者か 呼称各社の判断割れる
米ロサンゼルス市警は2月23日、1981年11月にロサンゼルスで起きた銃撃事件で妻を殺害したとして、元雑貨輸入販売会社社長の三浦和義(みうら・かずよし)容疑者(60)を22日午後、米自治領サイパン島の空港で逮捕したと発表した。この事件で三浦元社長は20033年、日本国内での無罪が確定している。発生から約27年ぶりに異例の展開を見せた事件で、三浦元社長の呼称をめぐり報道各社の判断が分かれている。
ロス疑惑報道と呼ばれた27年前の報道では、逮捕された人は呼び捨てにされていた。その後の人権意識の高まりにこたえる形で、逮捕された人は、容疑をかけられているだけでまだ犯罪者と決まったわけではない、という意味で「容疑者」という呼称が付けられるようになった。
三浦元社長の逮捕を各紙が報じたのは2月24日付朝刊。朝日、読売は、記事の初出のみ「三浦容疑者」とし、二回目以降と見出しでは「三浦元社長」という肩書きで報じた。
朝日は海外での事件・事故については、国情も考慮しつつ、国内に準じるのを基本とする。通常は今回も容疑者呼称となる。しかし、長典俊(ちょう・のりとし)社会エディター代理は「日本で無罪が確定しており、単なる事件とは異なる。通常にも増して犯人視しない報道を心がけた」と話す。海外での逮捕で取材が困難であり、証拠が明確になっていないことも考慮。容疑者呼称を使用した記事では、何らかの形で国内での無罪確定に触れることも徹底する。
読売も最高裁で無罪が確定している点を判断理由に挙げた。大久保弘道(おおくぼ・ひろみち)東京本社社会部次長は「一事不再理の原則を踏まえると日本の司法制度の下では、今後も『容疑者』とはならない。容疑者呼称を連発すると、司法手続きが国内で再開されたなどと読者に誤解を与える恐れもあった」としている。
NHKも「容疑者呼称は多用しない」との原則に沿い、容疑者呼称は一回とし、肩書き呼称を使用する。
毎日は24日付朝刊の最終版では見出しと記事の初出を「元被告」、二回目以降を「容疑者」とした。国内事件同様、無罪が確定した人物であることを示すため初出を「元被告」とし、見出しは初出にそろえた。翌25日付紙面は、続報のため、見出し、記事中ともに容疑者呼称とした。26日付朝刊からは、初出のみ「容疑者」、二回目以降と見出しは「元社長」に統一した。変更理由には、日本で裁判を担当した弁護士が25日に記者会見し、逮捕状が20年前のものであることが明らかになった点を指摘。「その後、最高裁で無罪が確定し、ロス市警の会見でも今回の逮捕につながる新事実が明らかにされなかったことなどを鑑みた」(斉藤善也(さいとう・よしなり)東京本社社会部長)とする。
共同は、通常の事件報道と同様に初報から、見出し、記事ともに容疑者呼称を使用。26日夕刊段階から、「日本では無罪が確定していることを考慮」して、初出を「容疑者」、二回目以降を「元社長」とし、「おことわり」も配信した。牧野和宏(まきの・かずひろ)社会部長は「米当局の逮捕状に基づき逮捕されているため容疑者呼称を維持する。一方で、日本では無罪が確定していることも考慮した」と理由を話している。
産経は見出し、記事ともに容疑者呼称を継続する。「米国では逮捕状が出て身柄が拘束され、現に容疑をかけられている」(広報部)と説明した。
今後の司法手続きの状況次第では、各社の呼称が再度変わることもあり得る。朝日の長(ちょう)社会エディター代理は「新証拠をロス市警が明らかにし、容疑が明確なものになれば判断も変わる。今後は、容疑の濃淡で呼称を検討することになるだろう」と話している。