新聞社が保有する不動産を活用して、収益に結びつける動きが大都市を中心に進んでいる。建物の老朽化や本社機能の移転などによる再開発が直接のきっかけだが、販売・広告両収入で厳しい状況が続くなか、現在は新聞事業のために取得した不動産を利用して商業施設、オフィスビルなどを建設し、新聞発行事業を経営的に支えていくとの認識も各社に共通のものだ。利益を追求するだけでなく、地域の活性化に寄与し、文化・情報発信の拠点としての役割を担うなど、新聞社として公共性に配慮した取り組みが大きな特徴だ。
新聞事業を支える不動産事業の成功例
「新聞発行業を経営的に下支えすること」。毎日新聞社の木村泰史(きむら・やすし)資財本部次長は、新聞社の不動産事業の役割を、こう説明した。
同氏によると、毎日新聞社の不動産収入は2007年度までの5年間で約5割増だという。最近の成功例に、名古屋駅前のミッドランドスクエア(MIDLAND SQUARE)を挙げた。トヨタ自動車などと共同開発し、07年春に開業。ブランドショップや飲食店などが並ぶ地上5階建ての建物と、47階建てのオフィス棟から成る。名古屋駅前の再開発の目玉のひとつとなった。貸室部分は、開業の数か月前にすべて埋まった。
読売東京の荒木識(あらき・さとる)管財部次長も「不動産事業が固定的な安定収入であることは間違いない。経営陣も販売、広告に次ぐ第三の収入源と言っており、この考えは一貫しているのではないか」との見方を示す。
同社は07年9月、初めての全館商業ビル「マロニエゲート」(MARRONNIER GATE)を東京・銀座に開業した。初日は約3万人が訪れた。地上12階建ての館内には、ファッションブランド店などが入居する。向かいには読売東京が出資する百貨店、プランタン銀座が位置しており、両施設の相乗効果を期待する。入居率は開業以来100%を維持する。
地方紙を見ると、神戸新聞が複合商業施設「ミント神戸」を運営する。06年10月にオープン。阪神大震災で損壊した旧本社跡地に建設した。「震災からの復興のシンボルにしたい」との願いも込めた。
織戸新(おりと・あらた)取締役経営企画室長によると、開業1年目は1200万人が訪れ、今年も900万人以上を見込む。業績も好調で、収入は新聞事業単体の1割強に及ぶ約28億円。「関連事業の連携を強化して、核である新聞事業を支えていきたい」と話した。
今年秋以降も新開発計画が続く
不動産事業の展開は、新聞社の収入を支えてきた販売・広告の両収入で厳しい状況が続くなか、今秋以降も続く。
中日は今年10月、東京・品川の旧東京本社跡地に初めて、賃貸ビルの建設を始める。10年末に地上19階、地下3階のオフィスビルが完成する。
朝日新聞は大阪本社がある大阪市・中之島の再開発で、高さ約200メートルの東西2棟からなる「中之島フェスティバルタワー(仮称)」を建設する予定。東地区の完成は2013年、西地区は2018年を予定する。「文化的で情報発信ができるビル」を目指す。
朝日が不動産事業に着目したのは、この1〜2年だという。中之島の再開発がきっかけとなった。岡田信之(おかだ・のぶゆき)財務本部長補佐は「130年の歴史の中で、新聞事業を展開し、発展させるために土地を取得してきた。今度はその土地を生かして新聞事業を支えていきたい」と話す。しかしあくまでもその役割は「新聞に元気になってもらうために汗をかく」ことだと強調する。
新聞社にとっての不動産事業
では、新聞社にとり適正な不動産業の規模はどれくらいなのか。「新聞社が社会的使命を果たすために必要な規模を見極めるのは難しい」と、毎日の木村氏は話す。不動産事業にリスクが伴うことを理由に挙げた。保有経費だけでなく、地価の下落、原油高による建築資材の高騰、景気悪化によるテナント撤退など、社会情勢の変化により影響を受ける可能性も否定できない。木村氏は、バランスのいい戦略を描きたいとしつつ「会社の将来を託す魔法の杖では決してない」と指摘した。
こうした目的に加え、不動産事業の役割には街のにぎわいや、文化・情報発信の拠点作りという側面があることも、各社から指摘された。毎日の木村氏は、「地域とのつながりを持つことが不動産事業の端的な意味だ。地域・都市への貢献では前面に立つ」と話す。
地域社会の文化や公共に役立つことを重視
毎日のミッドランドは名古屋駅前のにぎわいを作り出した。
オフィス棟には、約200人を収容するホールも設けた。施設を文化拠点としてほしいとの名古屋市の要望も踏まえ、近隣の企業で働くビジネスマン向けに会員制の講演会を毎月1回開く。会員は現在、100社を超す。落語など文化事業でも力を注ぐとしている。
神戸新聞の「ミント神戸」も文化施設と情報発信を重視するという。
「日本の映画発祥地」とも言われる土地柄にもちなみ、複合映画館を誘致した。神戸新聞文化センターも入る。
情報発信では大型LEDビジョンで、ニュースだけでなく、兵庫県内の観光地や特産品の情報なども放映する。NHKと協定を結び、地震など災害時には緊急放送も流す。織戸氏は「新聞社は情報産業。ビル全体を情報発信の拠点にしたかった」と狙いを語る。