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新聞大会会長あいさつ
第77回新聞大会 新聞協会長あいさつ
2024年10月16日 秋田市
一般社団法人日本新聞協会 会長 中村 史郎
第77回新聞大会を、ここ秋田市で開催することとなりました。開催に当たり多大なご協力をいただきました、佐川博之社長をはじめ秋田魁新報社の皆さまに、厚くお礼を申し上げます。また、秋田魁新報は2月2日、創刊150年を迎えられました。心よりお喜びを申し上げるとともに、長年培ってこられた地域との信頼関係を基礎に、秋田県に暮らす生活者の目線から情報を発信し続けてきた姿勢に敬意を表します。
昨年の研究座談会でAIについて取り上げた以降も、生成AIの利用は様々な分野に広がる一方、偽情報、誤情報を容易に流布して言論空間の混乱を招いたり、対立を作り上げて激化させたりする弊害が懸念されています。
報道コンテンツをはじめ著作物が無断で利用されることも大きな問題です。「検索拡張生成(RAG)」と呼ばれる、AIが事前学習とは別に、ウェブ上の情報を収集・要約して回答を生成するサービスを大手プラットフォーマーが始めました。従来の検索サービスがネット上のコンテンツへの「道案内」だとすれば、検索拡張生成は生成されるコンテンツの「種明かし」と言えます。情報の参照元となるサイトを訪れる数が減り、報道機関に著しい不利益が生じることが容易に想像され、著作権法上も違法の可能性が高いと考えています。新聞協会は7月、プラットフォーマーに報道コンテンツの利用には許諾を得るよう求めるとともに、政府にも制度整備の必要性を訴えました。
デジタル空間でコンテンツの価値が経済的に正当に評価されることは、報道機関が収益をもとに取材・報道を展開し、国民の知る権利に応えるうえで不可欠です。今後も協会一丸となって、この問題に対処してまいります。
では、こうした主張は読者・国民の理解を得られているでしょうか。ロイタージャーナリズム研究所の調査によると、日本で「デジタル版のニュースコンテンツにお金を支払ったことがある」と答えた人は9%と、英国の8%に次ぐ低さでした。デジタル版のニュースコンテンツにお金を支払っていない人に「いくらなら支払う意思があるか」と尋ねたところ、67%が「払う意思がない」と答え、英国などと並ぶ残念な水準です。
デジタル版以前に、新聞そのものの存在感の低下が深刻です。2023年に協会が調べたところ、無購読者の平均年齢は44.8歳と6年前より3.2歳高くなっています。無購読層の紙の新聞の購読意向は6年前に比べ二けた近く落ち込みました。特に30代で低下しています。一方、電子版の購読意向は増える兆しを見せません。
新聞の存在感の低下は、製作のサプライチェーンが細っている問題も顕在化させました。巻き取り紙、インキ、刷版、印刷資材に続き輪転機にも及んでいます。
しかし、環境の厳しさを嘆いているだけでは生き残れません。どうすれば新聞が多くの人々にとって不可欠な存在であり続ける未来を切り開けるのか──。そういう問題意識から、本日の研究座談会の第1部では有識者を交え議論します。第2部ではデジタル時代に求められる報道とは何か、それに向けて社内体制をどう整備していくか、各社の編集局長にご討議いただきます。
新聞の無読化が進み、ネットで手に入る無料のニュースで十分という風潮の広がりは看過できません。確かなニュースは取材・発信に必要な時間と労力をかけ、民主主義社会における国民の生活を支えています。そのことを人々に広く理解していただく取り組みを、業界を挙げて強化する時期にきていると考えています。
発足したばかりの石破内閣が衆院を解散し、総選挙が公示されました。来月には米国で次期大統領が選出されます。ウクライナや中東で戦闘が続き、内外とも激動の今、私たちには確かなニュースを届ける責務があります。
短い時間ではありますが、本日ご出席の皆さまとこれからの新聞のあり様について知恵を出し合うことで、本大会が有意義なものとなることを祈念し、開会のあいさつといたします。