新聞について聞きました!著名人インタビュー

無知を知る第一歩 2015年10月

林真理子・作家

 新聞は「神聖なもの」という感覚が子供の頃からあった。母が書店を営んでいたせいか、紙に書かれた活字は大切にするものと思っていた。中学生の頃は、帰宅してから新聞を読むのが何より楽しみだった。私は「学校の成績は良くないが、すごく物知りな子」だった。

 子供の頃、東京タワーに行きたいと願って書いた詩を、母が投稿してくれ、新聞に掲載されたことがある。うれしかった。父がよく投書をしていたのも記憶している。家族にとって、新聞はいつも身近な存在だった。

 貧乏な学生時代も売れないコピーライター時代もずっと新聞は取っていた。新聞を読んでいないインテリも少なからずいることに驚いている。

 今は、全国紙2紙と地方紙、スポーツ紙の4紙を購読している。朝、夫と娘を送り出した後、1時間くらいかけて、全紙に目を通す。甘い物をつまみながら、コーヒーを飲み、新聞を読むのは至福の時だ。職業柄、雑誌や書籍広告はやはり気になる。新聞はニュース以外の情報もとても貴重だ。

 新聞で読んだニュースについて、自分なりの考えを組み立ててみるのは重要なことだ。反発したり、その通りだと思ったり、後で確認する。

 一覧性のある新聞を読めば、シリア問題や欧州への移民・難民問題に関心を引かれ、介護やがんの治療といった話も目に入ってくる。電子メディアだと読むはずのない情報が入ってくるのはとてもありがたい。

 自分がいかに「無知」であるか、若いうちに気づくべきだ。自らの「無知」を知る第一歩が新聞を読むことだ。自分とは意見の異なる学者の話など気になったことを、専門の人に解説してもらうことがある。とても楽しいし、刺激になる。

 企業経営者には「新聞を読まない社員はいらない」というぐらいのメッセージを発してほしい。

 様々な情報が詰まっている新聞は「国民の文化と教養の基本」だ。活字離れが進む現状を考えると、消費税増税で新聞も本もますます読まれなくなるだろう。恐ろしいことだ。欧米を見習うことが好きな日本が、なぜ軽減税率の導入は見習わないのか。知識や教養を普及させるメディアへの軽減税率は「ぜひとも導入すべき」と声を大にして言いたい。

林真理子(はやし・まりこ)
1954年山梨県生まれ。日本大学卒。コピーライターを経て82年に作家デビュー。86年、直木賞、95年「白蓮れんれん」で柴田錬三郎賞、98年「みんなの秘密」で吉川英治文学賞。最新作は「マイストーリー 私の物語」。エッセーでも人気が高い。