新聞について聞きました!著名人インタビュー

文化・教育への課税を危惧 2014年10月

尾木直樹・教育評論家

 40年間の教師生活で、授業にはずっと新聞を使い続けている。

 中学や高校でやってきたのは「書き慣れノート」。生徒はまず、新聞から気になる記事を探す。プロ野球の戦評、料理レシピ、なんでもいい。それを切り取り、ノートにぺたっと貼る。気になる部分には印をつける。賛成は「○」、分からないは「?」、納得いかないは「×」なんて具合。そのうち、×の下に「むかつく」とか感想を書く子が出始める。文章にする子も現れる。それらをコピーし「国語便り」にして授業で配る。すると、2か月もすると、ほとんど全員が文章を書くようになる。読む、感じる、書く、それぞれに慣れるので、国語の平均点は、ほかのクラスより10点も20点も高くなった。

 もちろん、反発する子もいる。1か月間ずーっと天気予報図だけを貼ってきた子もいた。でも、ここで「ふざけるな」と叱ったら終わり。私がそういう少年だった。「やれ」と言われれば、「やってられるか」って反発する。私は全員に赤ペンを入れて感想を書いたが、彼には「すごく継続的に天気を追っかけていますね」と繰り返し褒めた。すると、私への反抗心が溶けたのだろう。ある時から、文化欄の哲学的なコラムを切り貼りし始めた。彼は天気予報図を切り取りながら、紙面をめくっていたのだと思う。

 今は新聞を使って大学生を教えている。班ごとに教育に関連する記事を選び、議論・発表している。ただ、下宿生にとって、新聞代は大きな負担。スマホだと、自分の興味のあることだけを検索で調べ、出てきた物だけを読んでしまう。新聞は紙面にパノラマ性があり、探し出す記事しか読まないことはあり得ない。同じ記事でも得るまでの情報量、学習量が全く違う。

 新聞を授業に持って来てと呼びかけているが、次に消費税が上がると、学生の負担感はますます大きくなる。若者が新聞を読み、社会人となっていい仕事をし、税金を納めれば、消費税を上げなかった分は、ちゃんと戻ってくる。税率の機械的な平等や均一化は楽だけど、文化・教育には命取りになるのではないだろうか。

 私の世代にとって、新聞は空気や食事と同じで、読まない日はない。それでも、学生の発表では毎週知らない話題がたくさん出る。「なるほど~」と感心しながら、ちゃっかりブログのネタにしている。実は子どもたちより、私が一番、新聞で得をしてきたんじゃないだろうか。

尾木直樹(おぎ・なおき)
1947年滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校の教師として、ユニークな教育を実践する。現在、法政大学教職課程センター長・教授。最近は、テレビ番組などにも多数出演し、「尾木ママ」の愛称で親しまれている。