新聞は被災地に勇気 2013年4月
須能邦雄・石巻魚市場社長
――東日本大震災では新聞の役割が再認識されました。
甚大な津波被害を受けた宮城県石巻市は震災直後から、電気、ガス、水道などライフラインが全てストップしました。当然、テレビも見ることはできず、自分の周りのことしか分からない状況でした。市役所や避難所などで新聞が配られ、同じように被害を受けた各地の情報を得ることができました。新聞は記録として残り、大事だと感じた記事は今も切り抜いています。スクラップがしやすいような紙面作りも意識してほしい。
――震災報道をどう受け止めていますか。
新聞は地域を映す鏡。記事によって、あらためて地域のことが分かります。被災した当時、自分では平静だと思っていましたが、記憶は曖昧な点も多い。新聞を読み返すことで、他の地域の人たちに正確に被災地の状況を説明することができます。厳しい状況でも頑張っている人の記事を読むと、勇気づけられます。産業の再生など各地の復興のプロセスに関する記事も大いに参考になっています。
――被災地では復興が本格化します。どのような報道が求められますか。
被災者の心のケアが重要性を増しています。その点でも新聞の役割は大きい。困難に直面し、苦悩している姿や乗り越えようとしている姿。いずれにしても記事で取り上げられると、励みになります。三陸の魚は国の宝。国が責任を持って水産業を立て直すべきで、そうした視点の報道も欠かせません。大きな企業や団体の動きだけでなく、小さくても個性的な活動に光を当ててほしい。今後も継続的に、さまざまな角度から現状を伝えてもらうことが、被災地の力になります。
――新聞に消費税の軽減税率を適用するよう求める声もあります。
社会の木鐸(ぼくたく)として公共的な使命を持つ新聞は、税率を軽減すべきでしょう。ただ、新聞と言っても、いろいろあります。国民の倫理観、道徳観を養うなど新聞の役割も踏まえ、第三者委員会で適用対象をきちんと判断する必要があるように思います。
- 須能邦雄(すのう・くにお)
- 1943年水戸市生まれ。東京水産大(現東京海洋大)卒。大洋漁業(現マルハニチロホールディングス)で米シアトル、ロシア・サハリン駐在、北洋サケマス船団長などを務め、94年に石巻魚市場入社。常務、専務を経て2001年から社長。