記事は対話の集積 思考深める 社会参加意識も向上 《宇都宮でNIE全国大会》
第24回NIE全国大会は8月1、2の両日、宇都宮市文化会館と宇都宮市総合コミュニティセンターで開かれた。大会スローガンは「深い対話を育むNIE」。パネル討議では、記者が取材対象者と対話を積み重ねて書いた記事が読み手の論理的思考力を高めるとの指摘や、情報を伝える専門家である新聞社と学校の連携が深まることでより良い教育につながるとの意見が出た。
新聞協会の山口寿一会長(読売)は開会あいさつで、「主体的・対話的で深い学び」を重視する新学習指導要領に触れた。新聞は取材相手に話を聞く作業の積み重ねで作られており「対話を学ぶための有効な教材となる」と述べた。また新聞の定期購読者は選挙での投票率が高いとし、新聞を読むことが「子供たちの社会参画意識の向上につながる」と話した。下野の岸本卓也代表取締役社長は「対話を育むことを軸に新聞活用の在り方を考える大会にしたい」とあいさつした。
パネル討議では、子供の言語活動を豊かにするための新聞の役割について意見交換した。文部科学省の小栗英樹教科調査官、下野の山崎一洋宇都宮総局長、家庭で新聞スクラップに取り組む大田原市の吹上順子さんと次女の県立矢板東高2年・二海さん、三女の同市立薄葉小4年・心海さんが登壇した。
吹上さん一家は、親子新聞教室への参加をきっかけに新聞の切り抜きに興味を持った。自身もスクラップのとりこになったという順子さんは「子供たちには記事に対する共感を忘れず、多角的な視点を身に付けてほしい」と述べた。
二海さんは普段の生活ではスマートフォンから情報を得ることが多いものの、新聞は見出しの大きさや写真の配置などが洗練されていて読むだけで多くの記事が目に入ると指摘。「知らなかったことに目を向ける好機になる」と話した。
心海さんは「新聞は後から読み返せることが便利」だと語った。分からない言葉を調べながら読むことで語彙も増えると述べた。
小栗氏は社会科教員時代に湾岸戦争の記事をスクラップした経験を話した。模造紙に記事を貼りコメントを書いて昇降口に掲示したところ、生徒の興味を引き、さまざまな意見が寄せられたという。新聞が届ける公正な情報は優れた教材になるとして「情報を伝える熟練者である新聞社と学校が連携することで素晴らしい学びが生まれるのではないか」と期待を寄せた。
山崎氏は「対話とは取材そのもの」だと語った。取材では、相手の心情や答えを想定しながら問い掛け、違っていれば質問を変えて相手の話を引き出す。こうした取材を経て生まれた記事を読めば「論理的思考や生きる力につながる」と話した。
「大村はま記念国語教育の会」事務局長で作家の苅谷夏子氏が基調講演に立った。NIEの先達である大村はま氏について話した。大会は新聞協会主催、栃木県と宇都宮市の教育委員会の共催で開かれた。下野新聞社と栃木県NIE推進協議会が主管。教員や新聞関係者ら1100人が参加した。
社説で学ぶ「伝わる」文章 図書館軸に切り抜き活用 公開授業、実践発表
NIE全国大会の公開授業では、宇都宮大教育学部付属中の中沢由香教諭が社説から論理的な文章の特徴を分析する授業を実施した。生徒から、具体例を入れることが文章の効果を高めているとの意見が出た。学校司書が作った教科別の記事スクラップの活用例も紹介された。
中沢教諭の授業では、3年生39人が食品ロスを題材にした二つの社説を基に、文章の構成や共通点などを話し合った。
「新聞は読み手の共感を得るためにどんな工夫をしているか」との問いに対し、長屋咲希さんは「具体的な事実や例を入れることで、より伝わりやすく共感しやすい文章になるのではないか」と述べた。発表では、勝又正太郎さんが「新聞記者が来ているので普段どのようなことを心掛けているか聞きたい」と、記者にインタビューする一幕も。
中沢教諭は「文章を論理的に読む力を養うため、筋道立てて書かれている社説を活用した」と話した。授業の最後には「論理的な文章を毎日読めるのが新聞。今後も活用して」と生徒に呼び掛けた。
実践発表では、宇都宮市立豊郷中学校の中川紀美子司書が学校図書館を核とした取り組みについて説明した。中川司書は教科ごとに記事をスクラップした「情報ファイル」を作成。新年度が始まる前に教員に聞き取りをして、授業に沿った記事を集めているという。
1年国語の授業では原爆を題材にした物語「いしぶみ」に関連して、原爆の特集記事を取り入れた。「数十年経っても水を求める人の声が耳に残っている」、「重傷者を置いて逃げた」など被爆者の声を伝えた記事を読んだことで「生徒は戦争の悲惨さを具体的に想像できたのではないか」と述べた。
(2019年8月1日)