著作権法改正の検討急務 「権利保護へ前進」と評価 AI「考え方」巡り文化庁に意見 新聞協会
新聞協会は2月9日、文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会による「AIと著作権に関する考え方」の素案に対し、同庁に意見書を提出しました。素案は現行の著作権法に関し従来より踏み込んだ解釈を示しているとし「権利の適正な保護に向けて一歩前進した」と評価。その上で、現行法の解釈だけで「コンテンツの権利保護を図るには限界がある」と指摘しました。法改正に向けた検討を急ぐよう求めました。生成AI(人工知能)の開発事業者やサービス提供者が知的財産にタダ乗り(フリーライド)することは許容できないと強調しました。
素案はAIなどの技術開発の過程で著作物を原則無許可で収集・利用することを認める著作権法30条の4がただし書きで著作物の無許諾な利用を禁じる「著作権者の利益を不当に害する場合」の事例などを示しました。
同条は人の知的、精神的欲求を満たす目的には使わない「非享受目的」で、著作権者の利益を不当に害さない場合に、生成AIによる機械学習などでコンテンツの無許諾な利用を認めます。素案は一つの利用行為が複数の目的を持つ場合、一つでも「享受」目的があれば同条は適用されないとしました。これについて意見書は「当然」と評価しました。
素案は「著作権者の利益を不当に害する」事例として、AIによる学習を防ぐために技術的措置を講じた上で情報解析に活用できるデータベース上の著作物の販売を想定するウェブサイトに対し、AIがその措置を回避して情報収集する場合を示しました。「潜在的販路を阻害する」ためだと説明。具体例として新聞社のデータベースを挙げました。意見書はこれについて「条件付きながらAI開発者やサービス提供者が新聞社のサイトからデータを無許諾で収集することに一定の歯止めをかける解釈」と評価しました。
また、素案は生成AIの学習用にウェブサイトを巡回するプログラム一つ以上に対し学習を防ぐ措置を取っていれば、データベースの著作物が将来販売される予定であることを推認させる一要素になるとの解釈を記しました。意見書は「妥当」と評価しました。その上で「もっとも、本来は情報解析用データベースの有無に関わらず、他人の知的財産にタダ乗りしたビジネスは許容されるべきでない」と主張。「法改正に向けた議論が必要」と訴えました。
素案はまた、検索エンジンと生成AIを組み合わせ、最新の情報に基づいて新たなコンテンツを生み出す「検索拡張生成」(RAG)について、「非享受目的」での利用とは言えないとしました。著作物の無許諾な利用を認める30条の4はRAGに「適用されない」との見方を示しています。その上で、報道機関の記事などの一部を検索結果として表示することを「軽微利用」として認める同法47条の5に言及。RAGがコンテンツの生成に利用する著作物の程度によっては軽微利用の範囲を超え、著作権者の許諾が必要になるとしました。
意見書は、RAGによるサービスが広がる中で「軽微利用の程度を超えるような事例が多発していることは看過できない」と表明。AI開発事業者やサービス提供者に対し「問題を放置せず、事態の改善を急がねばならない」と求めました。
AIによる海賊版サイトからのデータ収集を防ぐことも喫緊の課題と位置付けました。日本で発生した著作権侵害の損害賠償請求について、日本の著作権法が適用されるとした素案の考え方は「妥当」としました。
意見の全文はこちらでご覧いただけます。
(2024年2月9日)