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2008年 10月28日
森と山を守る「地域力」の今
信濃毎日「シカの乱 食害―中南信からの報告」
「シカ」といえば、どんなイメージが浮かぶだろうか。信州からはこんな声も聞こえてくる。「かわいい。けど、憎らしくもなる」。連載(七―九月)は広域面に四部構成で計二十四回。長野の中信・南信で深刻なニホンジカによる食害を追い、浮かび上がる課題を探った。
農林業の被害は今、南信で特に深刻だ。過疎化が進む下伊那地方。根羽村は特産のシイタケが狙われ、地域活性化への意欲まで奪われつつある。村内一万ヘクタールの60%をヒノキやスギの人工林が占める天龍村の愛知県境では、樹皮を食べられて立ち枯れた木が無残な姿をさらす。大鹿村の国有林では林道沿いの下草を食べられ、表土流出の懸念が募る。シカの生息域が広がるに伴い、飯田市の茶畑にはヤマビルが現れるようになり、食害に吸血被害が加わった。
南アルプス一帯だけで三万頭と推計されるシカ。撃ったり、わなに誘い込んだり、さまざまな捕獲作戦を展開しているが、さほど効果は上がっていない。連載は常に問いかけてくる。シカの乱から「何をくみ取らなければならないか」と。そして一つの方向を示唆する。森と山を守る大切さだ。エネルギー革命、中山間地域の過疎化、ハンターの高齢化......。山での人間の活動力が衰える一方、「山奥に閉じ込められていたシカの縄張りがどんどん広がっていった」。
シカが増え、食害が広がった、その要因は人間が作ってきたのではないか。丸山貢一・編集局次長兼松本本社報道部長は「地域力をどう再生していくのか」という問題に帰着するという。そして、「信州の土壌に根差し、全国を見据えて森と山の現状をこれからも追い続けていきたい」と語る。松本本社報道部の中川かおり記者を中心に、写真部、伊那・飯田・諏訪支社の六人が取材班を編成して担当した。(審査室)