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2009年 3月24日
他人事ではない―記者も模索
常陽「『存在の不安』を生きる―うつ病をめぐる今―」
うつ病に正面から切り込んだ企画である。人はなぜうつ病になるのか、どう克服すればいいのか、患者と家族、医者やカウンセラーにじっくり話を聞いて、経済大国の裏を明らかにした。
心の病気は人間関係が原因である。アフリカで長期のボランティア活動をして帰国、首都圏の会社に勤めた三十歳男性のケース。仕事で上司や同僚から厳しい言葉の「口撃」にさらされた。「暴言」なのか、きつい「励まし」なのか困惑するうち、電話に出るのが怖くなり、不眠症になる。過剰に食べて嘔吐(おうと)を繰り返す。すべては弱い自分がいけないと思い込み自殺を試みるが、失敗。自分はおかしいと気付き、医者に行く。
うつ病との闘いは、薬をどう減らすか、という問題でもある。抗うつ剤を服用した若い女性は「人生バラ色、何をしても楽しくなった」。公立病院で十種類以上の薬を処方されて毎日飲み続けるという薬漬け。担当医は「薬はどーんと服用しないと治らないからね」。
治療の過程で出会った人と結婚。夫の支えで「薬では自尊心を取り戻せない」と悟り薬をやめる。引きこもりを克服した経験を持つ夫は、医者が薬で患者の意思や感情を奪っているように見えて医者に抗議したのだ。うつ病の治癒とは、自尊心の再建だと分かる。
厚生労働省の調査では、うつ病を含む気分障害で通院する患者数は一九九六年四十三万人、二〇〇五年九十二万人。十年で二倍以上になった。男女比は女性が男性の一・七倍。
連載を一人で担当した海東強記者は「友人にうつ病に苦しんだ人がいて、他人事ではなかった。一億総うつといわれる時代、何か役に立てばと思った」と企画の動機を語った。なぜ増えるのか、どうしたらいいのかと、記者自身も一緒に考え悩んでいる様子が行間ににじんでいる。(審査室)