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2010年 3月23日
評議の秘密にどこまで迫るか

高知「裁判員たちの3日間・心の紋様」

20~60代の男女6人がある日突然、高知地裁に呼び出され、刑事事件の裁判に臨む。市井の人々は被告を前に何を感じ、どう思い惑い、いかに裁いたか。2月に社会面の7回連載で、県内初の裁判員裁判の濃密な3日間を描いた。

審理初日。「おとなしそうやなあ」。強制わいせつ致傷事件の被告に、男性裁判員はそんな印象を抱いた。だが、事件の再現写真を見て、女性裁判員は深い嫌悪感を覚える。

審理2日目。自分が被告なら「母がここに座るのか...」。証人尋問で被告の初老の母親に自分の母を重ねる。被告の同級生が涙ながらに「寛大な処置」を訴える場面も。だが、酔って事件を起こした被告に検察官が禁酒できるかと問うと、「やめる自信はない」。その歯切れの悪さにいら立ち、「信用していいのか」と疑う。

審理最終日。「出所後、仕事はあるだろうか」「再犯をしない保証はない」。評議では実刑か、執行猶予か意見が割れる。多数決で「懲役3年、執行猶予5年」。刑務所入りは当然という当初の思いが「社会での更生」に落ち着くまで―裁判員の揺れる心の動きをつづる。

評議の秘密に内心どこまでさわれるか」と山岡正史社会部長。裁判員の大半には個別取材に応じてもらえた。量刑に自分の感情を考慮していいのかと問う裁判員に、「僕たちも入れます」などと答える裁判官の発言も。だが、地裁からクレームはほとんどない。「まだ書ける。書いてぶつからない限り『秘密』の正当性も基準も分からない」と思う。

守秘義務のある裁判員を傷つけてはいけない。だが、評議も含め可能な限り伝えるのが使命。裁判員裁判の報道は各紙とも手探りだ。警察回りと遊軍による「市民法廷」取材班は10人余り。県内2例目の妻刺殺事件では裁判員が個別取材に全く応じていない。手探りはなお続く。(審査室)

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