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2010年 11月30日
「足でネタを稼ぐ」姿勢促す
愛媛「記者が歩く」
「県内を隅々まで歩いてみんか」。編集局長に言われて、山本良編集委員(37)は今夏から文字通り徒歩で町や村を回っている。歩く先々で、記者クラブでは得られない住民の生の声を聞き、地域の本当の姿と課題をリポートする。
第1弾は9・10月連載の「バスが消えた」(1面、10回)。松山市と内子町小田地区を結ぶ伊予鉄バス参川線(52・7キロ)が4月に廃止された。生活バス路線廃止が相次いでいるが、地元の実態はどうなっているのか。猛暑の最中の8月、テントや寝袋を詰め込んだ11キロのバックパックを背負って沿線の町村を歩いた。
「みんな困っとる」。運転できない老夫婦は松山市の病院に行くために片道5千円のタクシー代を払う。「薬代よりはるかにタクシー代の方が高いんじゃけん」と嘆く主婦(69)も。年金暮らしでは負担は大きい。病院まで11キロを歩こうとした男性(80)にも出会った。
中学のスクールバスなどを高齢者に利用してもらう地区もあるが、使い勝手はよくない。やむなく通院回数を減らす人もいるほど。バス廃止は住民の健康すら左右する。
歩き通したのは、他の廃止2路線も合わせて延べ9日間。出会い頭に片っ端から話を聞くが、断られることも。過疎のへき地でホテルや旅館はなく、野宿かお遍路宿に泊まるくらい。県政クラブ詰めが長い山本編集委員は「こんな取材は初めてだが、地域の実情がこれほど厳しいとは想像もしていなかった」という。
記者は「足でネタを稼ぐ」のが原点。だが、最近の若い記者は効率重視のあまり、何でもネットで調べる安易な姿勢がないか。自分で一次情報を集める基本を忘れがちではないか。編集局長の提案にはそんな危機感が込められている。次回は市町村合併をテーマに12月に掲載予定。(審査室)