2008年 1月29日
衆院再可決に疑問も

異例の越年となった臨時国会で十一日、インド洋での海上自衛隊の給油活動を再開する新テロ対策特別措置法が成立した。民主など野党の反対多数による参院本会議での否決後、衆院本会議で自民、公明など三分の二以上の賛成で再可決された。憲法の規定に基づき、参院で否決された法案が衆院で再可決され成立したのは五十七年ぶり。政府は二月中旬にも給油活動を再開する。新テロ特措法成立を論じた四十一本の社・論説から。

与野党とも数の力頼み

〈再可決〉新潟「(五十七年ぶりの再可決は)異例、異様な事態である。衆院では与党が三分の二を占め、参院は野党が過半数を握る『ねじれ国会』の意思が、このような形で示されたのは極めて遺憾だ。与野党とも数の力を頼み、互いの主張の違いを埋めようとする努力を怠った」、毎日「政府の新テロ法には重大な欠陥があった。民主党の賛成が得られないことを見越して、旧法にあった『国会承認』規定を削除した点だ。従来の安全保障関係法は、実力部隊である自衛隊の海外派遣には、衆参両院の承認で二重にチェックする考え方を取り入れていた。結果的に新テロ法は、衆院の意思だけで海自を派遣することになった。極めて残念である」、中日・東京「最近の世論調査では、給油再開反対が賛成を上回る傾向にあった。与党内では当初、再可決に踏み切るには、六割以上の国民の賛成がほしいとの声が根強かった。もっともな『目標値』だったが、それに向けて懸命に汗をかいた形跡はない。(略)国論が二分したまま、自衛隊を送り出すことは決して好ましいことではない」、神奈川「何よりの懸念は、衆参両院で第一党が異なる『ねじれ国会』で今後、再議決が安易に使われはしないかということだ。元来は最後の切り札として温存されるべき再議決が常態化すれば、言論の府の質の低下をも招きかねない」。

〈論議不足〉西日本「給油活動は、アフガニスタンのテロ封じ込め作戦に従事している多国籍軍への兵たん業務という意味で、軍事行動であることは間違いない。これが本当に日本にふさわしい国際貢献のあり方なのか、大いに議論の余地があるところだが、国会審議でそうした本質論が深まることはなかった。(略)過去六年間の給油活動がアフガニスタンの安定化や復興に本当に役立ったのかをめぐる検証も皆無に等しい」、高知「(福田首相と小沢・民主党代表の)二人が党首討論という公開の場で、法案について意見をぶつけ合ったのは、今月九日になってだ。憲法とのかかわりなどの基本的な議論を、採決の直前に行っていること自体、法案論議の未熟さをさらけ出している」、朝日「航空自衛隊が活動を続けるイラクはどうするのか。米国のイラク戦争を日本が全面支持したことを政府はどう総括するのか。民生支援などアフガン国内への協力をもっと強化できないのか。2度の会期延長で4カ月余にわたったこの国会で、そうした論議が深まらなかったのは政治の怠慢である」。

〈民主党にも責任〉読売「民主党は、一貫して新テロ特措法案の審議引き延ばしと採決先送りを追求していた。その揚げ句に、再延長国会終盤で見せた迷走は、民主党の無責任な姿勢を示して象徴的である。民主党は当初、参院で新テロ特措法案を採決せず、継続審議にするよう主張したが、共産、社民両党などの反対で、結局、新テロ特措法案を否決した。(略)政局の思惑を優先した小手先の対応である。法案に反対なら、早い段階で否決し、参院としての意思を示すべきだった」、神戸「国会の動きで目立ったのは、解散時期をにらみながらの駆け引きと対立ばかりだった。参院第一党の民主党の責任も問わなければならない。対案を出したのが年末ぎりぎりでは、本気で論戦する気があったのかと疑う」。

国民合意の形成目指せ

〈恒久法〉産経「新テロ法の問題点は期限を1年間にしたことだ。海自の活動を給油・給水に限定してもいる。これでは国際社会の期待に応える活動はできない。(略)恒久法制定は待ったなしだ。海外で新たな事態が起きるたびに特別措置法を定めて自衛隊を派遣する現状を改め、国際平和協力をより迅速に行わねばならない」、日経「私たちは自衛隊の国際協力活動の根拠となる法律の制定をかねて求めてきた。活動内容はインド洋での補給のような、いわゆる後方支援である。(略)安全保障政策は本来、超党派の合意を前提に進むのが望ましい。与野党間での議論の深まりを期待する」、京都「恒久法は自衛隊の海外派遣を容易にするアクセル機能も果たしかねない。近隣諸国への配慮も必要となろう。慎重な審議が欠かせない。(略)テロ対策や国際貢献について国民合意を形成するための真剣な議論がますます必要だ」。(審査室)

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