2008年 3月11日
「なぜ今になって...」

一九八一年に米ロサンゼルスで起きた銃撃事件で殺人罪などに問われ、最高裁で無罪が確定した元会社社長の三浦和義容疑者(60)が二月二十二日、渡航先の米自治領サイパン島で、銃撃を受け死亡した妻の一美さん(当時28)に対する殺人と共謀の容疑で逮捕された。ロサンゼルス市警の要請でサイパン島の司法当局が空港で身柄を拘束した。「ロス疑惑」として社会を揺るがした銃撃事件は、発生から二十七年を経て新たな展開を見せた。三浦容疑者逮捕を取り上げた二十四本の社・論説から。

過去の事件だったはずが

〈驚いた〉秋田「なぜ今ごろになって...。大抵の人はそんな第一印象を持ったに違いない。(略)突然の(逮捕の)報に薄れた記憶が一気によみがえってくる。『疑惑の銃弾』―センセーショナルなタイトルの週刊誌報道をきっかけに、大きな注目を集め、社会を揺るがす事件に発展した」、南日本「驚きを禁じ得ない。一連の『ロス疑惑』は一九八一年八月、三浦容疑者の妻がホテルで殴打されて負傷した。さらに三カ月後、妻は頭を銃撃されて一年後に死亡した。三浦容疑者は殴打事件で有罪判決を受けて服役し、銃撃事件では最高裁で無罪が確定している。日本では既に決着した事件である。米当局が今なぜ、強制捜査に乗り出したのか」、神戸「(ロス疑惑は)犯人なき殺人事件として、スキャンダラスな話題になり、過熱報道が批判にさらされもした。だが、無罪確定で、事件は過去のものになったはずだった。ところがそうではなかった。(略)呼び方をさん付けから、再び容疑者と言い換えなければならないことに戸惑いも感じる」。

〈新証拠〉朝日「米国の警察は『新しい証拠を入手した』と警察庁に伝えてきた。それは物証なのか、証言なのか。できるだけ早く開示してもらいたい。(略)ロス市警は元社長の身柄をロスに移すよう求めている。問題は、米国の警察の『新証拠』が、日本で確定した無罪の結論を覆すほどのものなのかどうかである」、中国「頭を撃たれた妻が一年後に死亡し、一緒にいた同容疑者も足を撃たれた。その現場にはライフルの銃弾が残されていた。銃特有の痕跡などから所有者を割り出し、第三者の関与が判明したのなら、文句なしの新証拠といえる。(略)しかし、新証拠が銃弾やDNA鑑定の結果などの物証ではなく、伝聞に基づく目撃証言など日本の法廷でも審理された状況証拠の積み重ねにとどまる場合はどうか。身柄拘束の是非が日米両国間で異なることも考えられる」、山陽「(ロス市警は銃撃事件の)実行犯が特定できなくても誰かと共謀したことが証明できれば処罰できる『共謀罪』を軸に立件の可能性も示唆した。今後サイパンからロサンゼルスに移送する司法手続きがあり、米国本土で本格的な調べが行われる見通しだ。司法当局が握っているとされる新証拠が焦点となろう」。

〈一事不再理、時効〉読売「日本の憲法には、無罪とされた行為について刑事上の責任を問われず、また同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない、とする『一事不再理』の原則がある。しかし、この原則は、国境を越えて海外までは及ばない。日本の刑法も、外国において確定判決を受けた者でも、同一の行為について更に処罰することを妨げない、と定めている。(略)ロス市警は、三浦元社長が米国に旅行する機会を狙っていたのかも知れない」、毎日「国内で無罪が確定したのに、渡航先で再び逮捕される事態が好ましいとは言い難い。(略)他国で裁判にかけられた事件は自国内で蒸し返さないのが最近の流れというが、この種の事件の取り扱いは罪刑法定主義の立場からも、関係国が協議し、ルール化することが望ましい」、産経「今回の事件で問題提起されたのが、『時効』である。日本は殺人の時効は25年だが、カリフォルニア州は保険金殺人などの『一級殺人』には時効がなく、最高刑は死刑である。時効の是非を議論する必要がある」。

裁判員裁判も念頭に置き

〈冷静に見守りたい〉北海道「(三浦容疑者が)起訴された場合、本人が有罪を認めて検察側と司法取引することや、無罪を主張して一般市民による陪審員裁判が開かれる可能性がある。この事件はかつて週刊誌やテレビ、新聞などの報道が過熱した。証拠に基づく事実と推測を混同せず、捜査の行方を冷静に見守りたい」、中日・東京「(逮捕は)現段階では分からないことが多い。過去の情報にとらわれてあれこれ憶測することは慎まなければならない。報道する側も報道に接する側も、近く実施される裁判員裁判を常に念頭に置きたい。(略)今後明らかになるであろう米側の捜査結果を、裁判員になったつもりで見守りたい。その経験は自分が裁判員に選ばれた時に役立つに違いない」。(審査室)

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