2008年 4月1日
政治の責任果たさず

福井俊彦日銀総裁の後任人事で国会が迷走、三月十九日の任期切れで戦後初の空席という事態となった。政府が提示した武藤敏郎副総裁(元財務次官)の昇格案、田波耕治国際協力銀行総裁(元大蔵次官)の起用案が、いずれも民主党などの反対で参院本会議で否決された。副総裁の白川方明氏が当面、総裁職を代行するが、通貨の番人をめぐるドタバタ劇に批判は強い。総裁空席が決まった後だけで三十六本の社・論説が取り上げた。

「見通し甘い」「行き過ぎ」

〈首相も民主党も〉日経「ねじれ国会の現実が厳しいのは確かだが、福田首相に強い指導力や果敢な決断力が感じられないのは残念である。参院の主導権を握る民主党は『財政と金融の分離』『財務省と日銀のたすき掛け人事に反対』などの理由で人事案を否決した。民主党の反対理由にも一理あるが、今は国際的な金融有事である。日銀総裁空席の事態をつくってまで反対するのは行き過ぎである」、京都「一連の迷走は、民主党などにも責任の一端があるとはいえ、福田康夫首相の見通しの甘さや指導力不足に起因するところが大きい。福井俊彦総裁の任期切れが迫る中で人事案提示が遅れたばかりか、民主党などが異を唱えていた武藤敏郎副総裁昇格など財務(大蔵)省事務次官経験者に固執したのは、財務省の意向を重んじたからなのか。野党側から『不同意になるのが明らかな候補をあえて提示したのは理解できない』といった声が出たのも当然だ」、朝日「民主党の対応には首をかしげるところがあったにせよ、同意を得られる人事案を出せなかった結果責任は首相が負わねばならない。2度も失敗した見通しの甘さが自らの首を絞めてしまった」、読売「(民主党は)首相の提示した人事案に対し、その候補者の資質や能力、志向する金融政策などについて十分吟味したのだろうか。『財務省出身者だから』などという、説得力に欠ける反対理由を挙げるだけでは、政治の責任は果たせまい」。

〈ねじれが示すもの〉中日・東京「与野党が意見を異にした核心部分は『財務省の事務方トップが安易に日銀総裁に天下っていいのか』という点だった。ねじれ国会は議論と選考経過を透明にして、日銀総裁問題を機に、あらためて天下りの問題点をも浮き彫りにしている」、毎日「日銀の運営にとって重要なトップ人事が今回、政争の具となり、泥だらけにされてしまった。日本の中央銀行の権威は、例のないほど手ひどく損なわれてしまった。同時に、中央銀行の独立性について、政治がまったくわかっていないことも明白になった」、静岡「衆参の『ねじれ』は政局前のめりの野党によって拒否権に姿を変え、政権奪取への道具になりさがった。(略)これから先もこうした政府人事をめぐって人材がさらしものにされ、捨てられていく事態を心配しなければならない。長い歳月をかけて育った人材が政争によって葬られていくとしたら国家的損失である」、西日本「今回の人事をめぐって首相が迷走を続けた背景には、野党との対話のパイプが目詰まりを起こしていることがある。野党が参院の多数を制するねじれ状況のもとで政治を前に進めるには、与野党の対話が不可欠だ。首相も与党も、野党との対話ルート構築の努力から始め、一から出直す覚悟が必要だ」。

国民にツケを負わせるな

〈この多難の時に〉信毎「日銀は総裁が空席のまま、副総裁の白川方明氏が総裁代行を務める異例の新体制となった。米国のサブプライム住宅ローン問題が世界経済に影響を及ぼし、日本経済も足踏み状態に入った。諸外国とも連携を取りながらの、的確な金融政策が求められる。総裁人事をめぐる混乱を踏まえ、独立性と透明性を高めていく努力も大事になる。白川新執行部に課せられた責任は一段と重い」、岩手日報「わが国の金融政策の『顔』は世界の市場に対して日本が発するメッセージそのものだ。その機会を失うと同時に、政治の混迷も内外に発信してしまった。国際的な信頼を失いかねない事態を引き起こした政治に猛省を促したい」、山陽「早期の総裁選びが求められる。決定期限は国際的な政策協調への悪影響を避けるため、先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれる予定の四月十一日までがめどになる可能性が高い。それまでに決められなければ、政治の機能不全としか言いようがない。与野党に課せられた責任は極めて重い」、産経「政治の混乱と混迷は日銀人事にとどまらず、道路特定財源問題や揮発油(ガソリン)税の暫定税率の取り扱いなどにも波及する様相だ。そのつけを負うのは国民である。国民の利益を守るための打開策を自民、民主両党に強く求めたい。このままでは国がつぶれてしまう」。(審査室)

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