2008年 4月15日
軍関与認定に説得力

太平洋戦争末期の沖縄戦で、住民に集団自決を命じたなどの記述で名誉を傷つけられたとして、旧日本軍の戦隊長らが「沖縄ノート」の著者で作家の大江健三郎さんらに対し出版差し止めなどを求めた訴訟で、大阪地裁(深見敏正裁判長)は三月二十八日「元隊長の命令があったとは断定できないが、集団自決には軍が深くかかわり、元隊長らの関与も十分推認できる」として請求を棄却する判決を下した。原告側は控訴した。集団自決をめぐる初の司法判断を二十二本の社・論説が論じた。

定説を踏まえた内容

〈評価できる〉信毎「沖縄で起きた『集団自決』について、明快な判決が出た。軍による強制はなかった、とする主張を退け、旧日本軍の関与を認めている。沖縄の人々が語り継いできた多くの事実とも合致する。説得力ある判決だ」、朝日「集団自決には手投げ弾が使われた。その手投げ弾は、米軍に捕まりそうになった場合の自決用に日本軍の兵士から渡された。集団自決が起きた場所にはすべて日本軍が駐屯しており、日本軍のいなかった所では起きていない。判決はこう指摘して、『集団自決には日本軍が深くかかわったと認められる』と述べた。(略)この判断は沖縄戦の体験者の証言や学問研究を踏まえたものであり、納得できる。高く評価したい」、沖縄「注目したいのは、体験者の証言の重みを理解し、さまざまな証言や資料から、島空間で起きた悲劇の因果関係を解きほぐそうと試みた点だ。(略)判決は、沖縄戦研究者が膨大な聞き取りや文書資料の解読を基に築き上げた『集団自決』をめぐる定説を踏まえた内容だといえるだろう」、中日・東京「原告は、遺族年金を受けるために住民らが隊長命令説をねつ造したと主張したが、判決は住民の証言は年金適用以前から存在したとして退けた。住民の集団自決に軍の強制があったことは沖縄では常識となっている。沖縄戦の本質を見つめていくべきだ」。


〈残念な判決〉産経「教科書などで誤り伝えられている"日本軍強制"説を追認しかねない残念な判決である。この訴訟で争われた最大の論点は、沖縄県の渡嘉敷・座間味両島に駐屯した日本軍の隊長が住民に集団自決を命じたか否かだった。だが、判決はその点をあいまいにしたまま、『集団自決に日本軍が深くかかわったと認められる』『隊長が関与したことは十分に推認できる』などとした。(略)日本軍の関与の有無は、訴訟の大きな争点ではない。軍命令の有無という肝心な論点をぼかした分かりにくい判決といえる」、読売「(判決は)『自決命令それ自体まで認定することには躊躇を禁じ得ない』とし、『命令』についての判断は避けた。(略)集団自決の背景に多かれ少なかれ軍の『関与』があったということ自体を否定する議論は、これまでもない。この裁判でも原告が争っている核心は『命令』の有無である。原告は控訴する構えだ。上級審での審理を見守りたい」

教科書記述の揺れ検証を

〈検定に一石〉西日本「昨年の高校日本史教科書の検定では、文部科学省がこの訴訟などを根拠に、それまで認めてきた『軍による自決の強制や命令があった』とする記述の削除・修正を教科書会社に求めた。沖縄県民挙げての抗議などで、その後文科省は検定意見を事実上撤回し、強制的な状況の下で『軍の関与』があったとする記述の復活を認めた。(略)歴史認識を見直すには、説得力ある根拠と慎重さが要る。明確な根拠と慎重さを欠いた昨年の教科書検定の混乱と迷走が、その難しさを浮き彫りにした」、毎日「判決は、当初の検定意見に見られる文科省の認識のあやふやさに疑問を突きつけた形で、文科省として反省と検証が必要である。(削除や修正に対する)沖縄県民の反発の背景には、本土防衛の捨て石にされたという思いや、それをきっかけに現在の米軍基地の島と化したことへの怒りがある」、高知「判決は教科書検定の在り方にも一石を投じる。(略)根拠もあいまいなまま特定の方向に誘導するような検定制度は、歴史学習にふさわしくない」。

〈次世代に継承を〉琉球「この裁判によって、沖縄戦史実継承の重要性がいっそう増した。生き残った体験者の証言は何物にも替え難い。生の声として録音し、さらに文字として記録することがいかに重要であるか。つらい体験であろう。しかし、語ってもらわねばならない」、北海道「大江氏は(判決後の)記者会見で『教科書に軍の関与という言葉しかなくても、教師はその背後にある恐ろしい意味を子供たちに教えることができる』と語った。沖縄戦の真実を次世代に語り継ぐことが、今回の訴訟が持つ意義だろう。(略)裁判で真に問われたのは、集団自決の悲劇を招いた軍国主義の異常さであろう。軍命の有無や個人の言動に目を奪われては、沖縄戦の真実を見逃すのではないか」。(審査室)

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