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2008年 5月13日
9条との関係に両論
自衛隊のイラク派遣差し止めなどを求めた訴訟の控訴審で名古屋高裁は四月十七日、バグダッドを「戦闘地域」と認定した上で、空自の空輸活動は「他国による武力行使と一体化した行動」と指摘、憲法九条に違反するとの判断を示した。イラク派遣をめぐる違憲判断は初めて。自衛隊の海外活動について情報開示を求め、イラク戦争を問い直す論調が高まった。三十八本の社・論説が取り上げ、憲法記念日に合わせてあらためて論じた社も目立った。
武力行使か国際貢献か
〈重い司法判断〉愛媛「イラク派遣の法的根拠を否定するきわめて重い意味を持つ。政府などからは活動継続の声が相次いでいる。だがそんな司法軽視が許されるのか」、中日・東京「今回の違憲判決が明確にしたのは、自衛隊海外派遣と憲法九条の関係である。与党の中には、自衛隊の海外派遣を恒久法化しようという動きがある。しかし、九条が派遣でなく『派兵』への歯止めとなることを憲法判断は教えた」、中国「輸送目的で派遣したのなら何を運んでも同じで、兵士だけは駄目だというのは現実的ではない。そう批判する専門家もいるが、憲法をないがしろにしていいはずがない」、朝日「空自の輸送機はこれまで攻撃を受けなかったものの、何度も危険回避行動をとったことを防衛省は認めている。実際に米軍機などが被弾したこともあった。判決の認識は納得がいく。(略)判決後、町村官房長官は派遣続行を表明した。最高裁による最終判断ではないからということだろう。それでも、高裁の司法判断は重い」、北海道「この判決を待つまでもなく、憲法九条は自衛隊の海外での武力行使を禁じている。だから九条は変えるべきだ、という声も出てくるかもしれない。しかし、それは逆だろう。九条は日本が平和国家を目指すという宣言である」。
〈国際平和活動への貢献〉読売「イラク特措法に基づく基本計画は、空自の活動地域をバグダッド空港に限定している。空港は、治安が保たれ、民間機も発着しており、『戦闘地域』とはほど遠い。空港が『戦闘地域』になれば、空自は活動を中止する。イラク空輸活動は、日本の国際平和活動の中核を担っている」、産経「憲法9条で禁止されている『武力による威嚇又は武力の行使』は、侵略戦争を対象にしたものと解釈するのが有力だ。国際平和協力活動を違憲という判断は日本が置かれている国際環境を考えれば、理解に苦しむ」、北國「判決は、イラク派遣差し止め請求について『派遣は防衛相に与えられた行政上の権限で、民事請求権がない』と退けた。イラク派遣は政治の決定において実施されており、今回の司法判断をもってイラクでの活動がすべて違憲のごとく叫ぶのは的はずれだろう」、日経「国連平和維持活動(PKO)や多国籍軍の平和構築活動に対し自衛隊が協力するに当たり、戦闘活動には参加すべきでないが、後方支援には幅広く参加すべきであると考えてきた。(略)集団的自衛権の解釈変更をめぐる議論に目をつぶったままで恒久法を制定すれば、いま起きている混乱は続く」。
対米協力ありきに疑問も
〈検証と説明責任〉西日本「イラク開戦の根拠とされた大量破壊兵器は見つからず、フセイン政権と国際テロ組織との関係も証明されていない。戦争の『大義』が崩れた以上、開戦を支持した当時の政府の判断を検証すべきだ。その上で、派遣継続の是非を議論するのが筋ではないか」、京都「あくまで特措法の範囲内で活動していると主張する福田政権が今後も空自の活動を継続させたいなら、情報公開を徹底し、輸送の場所も中身も明確にすべきだ。党首討論で空自撤退の是非を議論することも望みたい」、毎日「輸送対象に米軍を中心とする多国籍軍が含まれており、当初の『人道復興支援』から『米軍支援』に変質したのではないかとの見方が前からあった。政府は、輸送の具体的内容についても国民に明らかにすべきである」、熊本「政府は米国の要請を受け、日米同盟重視の証しとしてイラク派遣を強行した。インド洋での海上自衛隊の給油活動も、対テロ対策との理由で継続している。しかし、いずれも国際紛争における武力行使を禁じた憲法九条との整合性についてはあいまいなままである」、信毎「政府が対米協力を重視し、自衛隊派遣ありきの姿勢を続けることにどこまで理解が得られるか、疑問はますます募る」、岩手日報「イラクの空自と陸自、さらにインド洋での海上自衛隊の活動についても公開される情報は乏しく不透明感がぬぐえない。(略)今回の判決で言及のなかった陸自と海自を含めて特措法に基づく自衛隊の一連の活動を検証し全体像を国民の前に明らかにする必要がある」。(審査室)