2008年 5月20日
友好は確認されたが

中国の胡錦濤国家主席が六日から十日まで中国トップとしては十年ぶりに来日、福田康夫首相との首脳会談で「戦略的互恵関係」を推進するとの共同声明に署名した。滞在中は幅広く交流、早稲田大学での講演や卓球、企業視察や法隆寺、唐招提寺訪問などで日中友好をアピールした。五十本の社・論説が未来志向の友好確認を評価した一方、懸案が先送りされ具体的成果が乏しかったと指摘、両国に一層の外交努力継続を訴えた。

戦後日本を積極的に評価

新たな一歩〉琉球「両国が『日中関係は最も重要な二国間関係の一つ。平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展の実現を決意する』との認識で一致したことを歓迎したい。首脳会談の成果を日中の長期的な安定関係に向けた大きな一歩にしなければならない」、新潟「十年前の江沢民前主席訪日以降、ぎくしゃくしていた日中両国が、首脳同士の相互訪問にこぎ着けたことは評価していい。今回の会談は到達点ではなく、新たな一歩の始まりである」、西日本「前回は、当時の江沢民主席が、過去の戦争に対する『反省』を繰り返し求め、険悪な雰囲気となった。今回は対照的に、胡主席の言葉通り、中国が対日関係重視に大きくかじを切ったことを強く印象付けた」、京都「自ら『暖かい春の旅』と位置づけた今回の訪日は、具体的成果は乏しかったものの、日中両国の関係改善を内外に印象づけ、相互信頼の基礎を固めた点で評価できる」。

〈「歴史」封印〉河北「共同声明で特筆すべきは、中国側が戦後六十年余の日本の平和国家としての歩みを積極的に評価、戦争や侵略に対する日本側の『反省』や『責任』を盛り込まなかったことだろう。中国が公式文書で戦後日本の経緯を評価したのは初めてだ」、毎日「共同声明で注目されるのは、歴史認識の扱いだ。過去の戦争に関する日本の謝罪や反省には触れず、戦後日本の平和国家としての歩みを中国側が積極的に評価した、と記している。(略)今後の日中関係の指針となる政治文書に、未来志向の中国側の姿勢が反映された意義は大きい」、上毛・岐阜・長崎など「『歴史認識』を繰り返し追及した江沢民前主席、靖国神社参拝を続けた小泉純一郎元首相らの影響で停滞した過去十年の反省を踏まえ、両国首脳が日中関係の重要性を再定義したといえよう。『新しい歴史のスタート点』(胡主席)の言葉通り、率直に評価したい」。

〈懸案先送り〉東奥「未来志向の友好ムードをアピールした両首脳だが、チベット問題や中国製ギョーザ中毒事件などの懸案は先送り。日本国内で高まっている中国に対する警戒感や違和感を解消するまでには至らなかった」、産経「両国間の懸案では、進展はなかった。このままでは『チベット騒乱で世界の非難を浴びる中国の孤立回避に利用された』との批判も出かねない。共同声明の内容を早急に具体化していく必要がある」、日経「成熟した関係を築くには双方の一層の努力が必要なことが浮き彫りになった。(略)胡主席が約束したパンダ二頭の貸与を除けば、日中間に横たわる具体的な懸案の決着は事実上先送りした形だ」、北國「さまざまな分野の対話と協力がうたわれ、見た目はおいしそうでも、肝心の『あんこ』が乏しいまんじゅうの感がある」。

率直な対話で関係進展を

〈感情とズレ〉中日・東京「今回の首脳会談には中国に対する国民感情と、ずれがあるのも指摘せざるを得ない。(略)相手が触れられたくない『はれもの』を避けるのは外交技術だが、友人として率直に言う方が真の信頼関係につながることもある」、愛媛「互いの立場をおもんぱかった発言に終始した感じだ。確かに友好ムードは演出されたが、日中両国民ともに『進展』が実感しにくいのではないか」、読売「両国民間の感情的な対立を和らげることも、胡主席が来日した目的の一つだという。とすれば、中国製冷凍ギョーザ中毒事件の真相究明にもっと熱意をみせてほしい。(略)首相は、北京五輪の成功に日本が協力すると表明した。そのためにも、チベット問題では言うべきことを言い続ける必要がある」。

〈今後が肝心〉北海道「両首脳は今年を日中関係の『飛躍元年』にしたいと口をそろえた。そのためには真っ向から議論することも必要だ。そんな首脳会談を重ねていきたい」、北日本「アジアの中で両国がかけがえのないパートナーであることは間違いない。一時だけの強固な関係確認に終わらぬよう、両国首脳は今後も率直な対話を続けてもらいたい」、朝日「日本側が歴史問題を軽んじれば、また両国関係が揺さぶられるかもしれない。中国側も、チベットや輸出品の安全問題などで国際的に受け入れられる行動を見せないと、世界には違和感ばかりが広まる。共同声明はしょせん出発点にすぎない。新しい日中協調の現実が試されるのはこれからだ」。(審査室)

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