2008年 6月3日
軍事利用への拡大危惧

<p>防衛目的での宇宙利用に道を開く宇宙基本法が五月二十一日、参院本会議で自民、公明、民主三党などの賛成多数で可決、成立した。これで、高度な偵察衛星や弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星の導入が可能になる。また、内閣に首相を長とする「宇宙開発戦略本部」を置き、安全保障や産業振興のための宇宙開発を総合的に進める。法案審議の段階から、三十二本の社・論説が法制定の背景や課題を論じた。</p>
<h2>新しいハードルは「非侵略」</h2>
<p>〈懸念は?〉毎日「日本は69年に、国会で宇宙利用を『平和の目的に限り』とする決議を全会一致で採択し、政府は『平和目的』とは『非軍事』であると説明してきた。法案はこれを転換し、『非軍事』のハードルを『非侵略』まで引き下げ、防衛利用を認めるものである。(略)法案が将来の宇宙への兵器配備に向けた『入り口』になるのではないか、との懸念が残る」、神戸「北朝鮮が二年前、弾道ミサイルを発射したときも、その情報は米軍に頼らざるをえなかった。このため、情報収集能力をもっと高めるべきとの声が強まった。高性能の情報衛星があれば、危機の芽をより早く察知できる。その考えは否定できないものの、大前提の『非軍事』が消えることで、平和の留め金がひとつ外れるような危うさを感じる」、日経「防衛目的では計画の決定経過や評価が明らかにされなくなる可能性がある。基本法は首相直轄の宇宙開発戦略本部が総合戦略を練るとしているが、防衛目的が聖域となって民生分野とかみ合わぬ開発戦略ができたり、民生分野も秘密が増えたりする懸念は残る」、読売「宇宙の開発・利用を、日本の安全保障に役立てるのは当然だ。(略)3党の宇宙基本法案は、宇宙の平和利用について、『非侵略』という国連宇宙条約の考え方と、専守防衛など『憲法の平和主義の理念』を踏まえて行う、と定義し直すものだ。民主党が、国際的に異質な足かせをはずすため、与党と法案を共同提出した意味は大きい」。</p>
<p>〈議論不足〉茨城・長崎など「(法案は)『非侵略』に限り自衛隊の宇宙利用を認める内容だが、どこで歯止めをかけるかなど突っ込んだ議論は先送りする性急さだ。(略)軍事利用が拡大すれば、宇宙科学など平和利用への影響も必至だ。重大な方針転換なのに、なぜきちんと議論しないのか」、朝日「衆参両院合わせて、国会での実質的な審議はたった4時間。(略)大原則の変更なのに議論が尽くされなかったのは極めて遺憾だ。与党と民主党が政策合意を目指すのはいいが、広く国民的な議論を巻き起こす努力もせぬまま、数さえ整えば採決してしまうというのは乱暴ではないか」、新潟「憲法と密接に絡む法案提出に当たっては幅広く国民を巻き込んだ議論を重ね、納得を得る必要があったはずだ。だが、三党が積極的にその努力を払った跡はうかがえない。残念である」。</p>
<p>〈憲法との整合性〉高知「日米の軍事的一体化が進む中、自衛隊が偵察衛星で入手した情報は米軍にも提供されるだろう。その情報をもとに米軍が先制攻撃に踏み切る可能性も否定できない。防衛政策の基本である『専守』や、集団的自衛権の行使を禁じる憲法との整合性はどうなのか」、西日本「高度な性能をもつ衛星による情報収集は、ミサイル発射だけでなく環境破壊や災害、テロなどの防止に役立ち、国際貢献にもつながる。だからといって『平和利用の原則』を捨ててしまうのは、平和憲法をもつ国としていかがなものか」、北海道「確かに法案には『憲法の平和主義の理念にのっとり』とある。しかし、自衛隊の海外派遣の拡大など平和主義がなし崩しに浸食されてきた例を見れば、この一文がいったいどれほどの歯止めになるのか、と不安になる」。</p>
<h2>平和利用とのバランスを</h2>
<p>〈軍事と民生〉中日・東京「宇宙開発は多額の予算を必要とする。その中で防衛分野が優先されれば、平和利用が割を食う。両者のバランスをどう取るのかは全く不明だ。わが国は平和利用の一環として、小惑星探査機『はやぶさ』や月周回衛星『かぐや』など優れた無人探査技術を開発し、世界から高い評価を受けてきた。こうした技術開発が先細りにならないか」、産経「宇宙開発は、一国の科学力と技術力を示す総合的な指標であり、若い世代が科学技術に夢を広げる糸口となる未来への領域でもある。(略)予算配分が防衛分野に偏り過ぎて、宇宙科学や宇宙ビジネスの分野が先細りになるようなことがあってはならない」、琉球「宇宙開発戦略をめぐり、近隣諸国や国際社会に無用な誤解と不安を与えぬよう慎重でなくてはなるまい。日本は何を目指し、何を目的にしているのかという透明性の努力も欠かせない。宇宙基本法は『非軍事原則』の精神を貫きたい」。(審査室)</p>
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