2008年 8月26日
大戦を風化させまい

今年もまた、暑い八月十五日がめぐってきた。六十三回目の終戦記念日。北京五輪の熱気を離れ国民一人一人が平和と民主主義の尊さを再認識し、不戦の誓いを新たにしたことだろう。中国、韓国など近隣諸国との関係に配慮した福田康夫首相は靖国神社への参拝を行わなかったが、三人の閣僚が参拝した。五十二本の社、論説が平和を問い直す主張を展開した。

歴史認識の溝はなお深く

〈戦争を語り継ぐ〉山陽「戦争体験の風化がいわれるようになった。戦後生まれで戦争を知らない世代が日本の人口の四分の三を占めるようになったからだ。(略)戦争は、普通の人々にいかに悲惨な結果をもたらしたのか。一人一人が後世へ語り継いでいけば、平和を愛する心はより確かなものになるだろう」、日経「『過去に目を閉ざす者は未来に対してもやはり盲目となる』とドイツのワイツゼッカー元大統領が語っている。過去をきちんと学び、現在の平和の尊さを知るべきだろう」、中日・東京「あの戦争では多くの若者が日本の未来を信じることで不条理の死の慰めとしました。他人と歴史に無関心で、それすら忘れてしまったら戦後の日本が不毛になってしまいます」、佐賀「若者の犯罪は『誰でもいいから殺したかった』『社会に不満があった』など、取るに足らない理由で起こしているケースが多い。(略)彼らが戦争の実際を少しでも知ろうと努めたら、こんな事件は起こさなかっただろう」。

〈加害の歴史に目を〉南日本「ともすると日本人は自らを戦争被害者として語るようになっているが、日本がアジアの国々に大きな迷惑をかけた加害者であることを、決して忘れてはならない」、信毎「加害の歴史に目を向ければ、日本人の死を悼むだけでは足りない。アジアでもおびただしい人々の命が失われている。盧溝橋事件の七月七日、日米が開戦した十二月八日の意味をかみしめ続けたい」、神奈川「あの戦争が侵略戦争だったことを日本の首相が認め、アジア諸国に対する加害の事実に触れたのはようやく一九九三年のことだった。侵略の事実を隠しても仕方があるまい。ことに日中戦争では戦場は一貫して中国大陸だったことがそのことを示している」、毎日「北京五輪での応援ぶりを見ると中国側の反日感情は根強く、日本国内にも反中、嫌中意識があるように見える。韓国との関係も竹島(韓国名・独島)問題などをめぐり、再びぎくしゃくしている。歴史認識をめぐる溝はなお深いということだ」、朝日「中国と日本との間ではこれからもさまざまな摩擦があろう。だが、嫌日と嫌中がぶつかり合うのは不毛である。終戦から63回目の夏。五輪が象徴する中国の台頭は、日中関係にも新たな発想を迫っている」。

〈消えぬ戦火〉北海道「平和の祭典であるべき北京オリンピックが厳戒下で開かれているさなかに、中国国内でテロが相次ぎ、さらにグルジアでは軍事衝突が起きるなど、世界は戦火や死の恐怖と隣り合わせにある」、茨城・日本海など「世界ではいまだに硝煙弾雨が絶えない。ロシアとグルジアの軍事衝突は人々を震撼(しんかん)させたが、五輪という平和の祭典の最中にも罪のない市民の命が奪われている、という厳しい現実から目を背けるわけにはいかない」、西日本「戦争の世紀といわれた二十世紀から次の世紀に移ったが、なお戦場はある。宗教や民族の対立による紛争は絶えず、テロという形で無差別に残忍な攻撃が繰り返されている」、秋田「武力が国民を翻弄(ほんろう)する現実の中で、かつて国土が焦土と化し唯一の被爆国ともなった日本には、世界の国民が平和を享受できるよう、国際社会に強く呼び掛け続ける責務がある」。

心穏やかに慰霊する場を

〈追悼のかたち〉産経「東京・九段の靖国神社には、今年も多くの国民が参拝に訪れた。だが、福田康夫首相の姿はなかった。予想されたこととはいえ、残念である」、読売「この日(八月十五日)は『A級戦犯』が合祀されている靖国神社をめぐり、熱い議論が交わされる日でもある。(略)靖国神社側が、適切な対応をしなければ、千鳥ヶ淵戦没者墓苑を拡充するなどして天皇参拝の中心施設にすべきだという議論が、今後勢いを増していくことになるのではないか」、新潟「靖国神社がA級戦犯を合祀したことに昭和天皇が不快感を示していたことが明らかになった。天皇も政治家も、そして国民も心穏やかに戦没者を慰霊する場が要る」、琉球「靖国参拝問題は、日本の政治家にとって侵略戦争に対する歴史認識を問う『踏み絵』の感すらある。福田首相はアジア諸国の信頼を損なうことがないよう、A級戦犯分祀や宗教色のない新追悼施設の建設など、抜本的な解決に前向きに取り組む時期にきている」。(審査室)

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