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2008年 10月21日
すかっとさせる快挙
日本人のノーベル賞受賞者が相次いで四人誕生した。南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授(87)、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授(64)、益川敏英・京大名誉教授(68)が七日、今年の物理学賞に決まり、下村脩・米ボストン大名誉教授(80)が翌八日、化学賞に選ばれた。南部氏ら三人は素粒子の理論で先駆的な役割を果たし、下村氏は生命科学の研究に不可欠な緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見したことが評価された。日本人のノーベル賞受賞は六年ぶりで、物理学賞での独占は初めて。五十七本の社・論説が取り上げた。
基礎研究の重要さ示す
〈快挙〉福島民友「金融不安など何かと心配な材料が漂う中で、日本人の相次ぐ受賞は人々をすかっとさせる快挙だ」、日経「湯川秀樹・朝永振一郎両博士らの伝統を引き継ぐ日本の理論物理学の面目躍如といえようか。ノーベル物理学賞は日本で育った三人の研究者が一挙に受賞する快挙だった」、西日本「近年、理科が嫌いな子どもが目立つという報告がある。四氏の受賞は、こうした子どもに科学の楽しさとロマンを教える格好の話題でもあるだろう」。
〈独創性〉神戸「南部氏は物質の究極のもとは『粒』ではなく『ひも』であるなどと、数々の独創的なアイデアを提唱し、質量の起源や宇宙誕生に迫る手がかりを与えてきた。一方、素粒子論に新たな地平線を切り開いたとされる『小林・益川理論』は、ふろで浮かんだアイデアから生まれ、二人で練り上げた成果というところが面白い。(略)がり勉だけでは、ひらめきやアイデアは生まれない」、産経「まさに紙と鉛筆による研究で、現在の素粒子物理学の骨格をなす『標準理論』の一角を築き上げたのだから、その創造性は驚きに値する。巨額の研究費が投じられることが当たり前になりつつある今日の自然科学の在り方に一石を投じる受賞であろう」、新潟「目を向けたいのは、独創的な理論を構築できた背景に自由な研究環境があったことだ。(略)南部さんは『(シカゴ大は)自由で雰囲気がよかった』と振り返った。益川さんと小林さんが学んだ名古屋大物理学教室でも闊達(かったつ)な議論が尊重されていた。(略)科学の進歩には談論風発を促し、切磋琢磨(せっさたくま)する場が大切ということだろう」。
〈基礎研究〉山陽「興味深いのは、下村氏がGFPを発見し、蛍光を出す化学構造を解明した時点では『美しい緑の光を放つ不思議なタンパク質にすぎず、何の利用法もなかった』(下村氏)という点だ。(略)今では(生命科学研究に)欠かせないツールになっている。基礎研究の重要さを示す好例といえよう」、京都「国立大の独立行政法人化を契機に、国の運営費交付金は削減が続く。各大学は研究の成果に応じた競争的資金の獲得を迫られ、実学重視の傾向はますます強まっている。『競争的資金に頼らない基礎研究の充実が必要だ』という、小林氏の指摘は重い」、毎日「気になるのは、日本の科学技術政策が経済偏重に向かっていると思われることだ。政府は科学技術を経済活性化の主要な柱と考え、大学の研究にも効率や応用を求めている。しかし、第一級の発見は経済効果を第一に考える環境からは生まれないはずだ」。
頭脳流出を防ぐために
〈研究環境〉朝日「下村さんがGFPを見つけたのは1960年代だ。小林さんと益川さんの仕事は35年前だし、南部さんの業績は半世紀もさかのぼる。(略)いま優秀な若手をいかに育て、かれらが存分に力を発揮できる環境を整えるか。優れた研究をどれだけ支援していくのか。それが日本の未来の科学力を左右する」、読売「心配なのは、近年、若者が物理学をはじめとする理工学系を敬遠していることだ。(略)地味なうえ、実験で長時間拘束される。一人前になるには、通常、修士課程までで6年、博士課程までで9年かかる。その割に就職は厳しい。(略)これでは、理工系に進学しても将来の道を描けない。政府と大学は、科学者、技術者の育成システムの改革に取り組むべきだ」、中日・東京「(南部、下村両氏の)受賞対象の業績は、研究の場を米国に移してからである。(略)日本人研究者が海外で活躍するのは歓迎だが、その理由が国内では自由に研究できないためであれば、研究体制を根本的に反省しなければならない」、北海道「米国などで、成果を挙げている日本人研究者は数多い。自由な発想を尊重し、外国から優秀な頭脳を受け入れる柔軟な土壌があるのだろう。裏返していえば、日本の研究現場には、息苦しさや大学院を出ても研究ポストが得にくいなどの問題があるのではないか。頭脳流出を食い止めるためにも、海外の研究者が日本に集うような魅力づくりが急務だ」。(審査室)