2009年 1月13日
経済危機の克服議論

在京6紙の新年号紙面
政治の立て直し訴える

世界的な経済危機が一段と深刻さを増し、手詰まり状態にある国内政治を引きずりながら、ウシ年を迎えた。国民の間に重く広がる閉塞感を取り除く方策は見えていない。在京各紙の元日紙面は、世界危機をどのように克服していくかをテーマに、新しい秩序を再構築することの重要性を指摘した。

読売が独自ダネ、特集・連載5紙

【1面トップ】読売が独自ニュースを、産経は特集記事を据えた。朝日、毎日、日経、東京は連載企画を置いた。

読売 「『生体認証』破り入国 『テープで指紋変造』 韓国の女08年4月、青森空港」。不法滞在で強制退去処分になった韓国人の女(51)が二〇〇八年四月、入国審査時に指紋照合で本人確認する生体認証(バイオ)審査をくぐり抜け、不法に再入国していたことがわかった。女は「特殊なテープを指にはって指紋を変造し、審査を通過した」と供述した。このシステムはテロリストの入国阻止を主な目的に導入されたもので、テロ対策の見直しを迫られることになりそうだ。

産経 「冷戦終結から20年 『経済グローバル化』危機 黎明の光はいつ差すのか」。東西冷戦に事実上の幕を引いた「ベルリンの壁」の崩壊から、〇九年で二十年となる。冷戦後、国家統一という苦難を乗り越えてきたドイツ。冷戦終結を主導しながら各地の紛争に苦悩し、金融・経済危機にあえぐ米国。双方の視点から、激動が予感される年の世界を考察した。

朝日 連載「世界変動 危機の中で」。三つの嵐が重なり、海の荒波が高さ三十メートルにまで達したという一九九一年の米東海岸沖での暴風雨「パーフェクト・ストーム」のように、金融危機は巨大な嵐となって人々を巻き込んだ。世界に見られる「危機の連鎖」を一カ月かけて追い、昨年十二月三十一日から掲載。昨年九月の「リーマン・ショック」が、投資家らに「逃げ場のない嵐」となって押し寄せている事例を香港、広東、米デトロイト、ドイツ、スペインなど広い範囲に拾う。世界の夢工場・ハリウッドが、カネや仕掛けも行き詰まり、漂流し始めている実態も浮き彫りにした。

毎日 連載「アメリカよ 新ニッポン論」。六〇年の日米安保改定からまもなく半世紀。軍事・経済・社会・文化まで、同盟は広範に深化してきた。次の半世紀の成熟した関係はどうあるべきかを探った。「100年に1度」の金融危機の中、三菱UFJフィナンシャル・グループから米金融大手モルガン・スタンレーへの出資という、昨年十月十三日の巨額資本提携の陰には、日米両政府の緊密な関与があり、ビジネスの論理を超えた経済安全保障の同盟があった。第一部「同盟と自立」はこうした日米関係の舞台裏を解き明かしていく。

日経 連載「世界この先」。金融危機の震源地・米国の揺らぎは、経済の枠内にとどまらない影響を世界に与えた。その結果「世界秩序は一極集中から多極化とでもいえる方向に向かう。すべてが生き残るわけではない。日本のみならずどの国も、企業も、個人も、多様化した価値観もふるいにかけられる」。第一部は、過去の教訓も交えながら、何に「生き残る力=サバイバビリティ」があるのかを探る。

東京 連載「日本の選択点」。今年は衆院選挙が行われる。政権選択の選挙といわれている。「日本の進路を選ぶのは国民だ」。未曾有の経済危機に見舞われている日本は「『百年に一度』の岐路に立っている」。日本が直面する問題をテーマに、日本の将来を選ぶ「選択点」を考えていく連載は、ネットカフェ住民の実態を例に、「健康で文化的な最低限の生活」を国民が享受できるのは「雇用」か「福祉」のどちらの道か、の問い掛けで始まる。

「人に優しい社会」求め

【社説】各紙が価値観の変化に対応した政治を求める。

朝日 「人間主役に大きな絵を 混迷の中で考える」。いま直面している「複合的な危機」の克服は「もう一度日本を作り直すぐらいの大仕事になる」。しかも「みずから知恵と力で、この荷を背負わなければならない」と論じた。さらに「ひたすら成長優先できた時代がとうに終わり、価値観が大きく変化するなかで、どんな国をつくっていくか」だと説き、「将来を見すえた国づくりに集中して資源を投下し、雇用も創出する。そうしたたくましい政治が要るのだ」と主張した。

毎日 「人に優しい社会を」。「21世紀の序盤を生きてきて世界は今、新しい価値観を必要としています」と指摘し、「(価値観を確立するために)もっとも大事な役割を果たさなければいけないのが政治です」と強調した。さらに「政治家不信をまず払拭(ふっしょく)することが、多方面で求められている安心感の基本です」と論じ、「政治の最終目標は人に優しい経済社会を作ることです。それが今回アメリカ的価値観の崩壊からわれわれが学んだ教訓です。久々にみんなで新しい挑戦を始めようではありませんか」と呼び掛けた。

読売 「危機に欠かせぬ機動的対応 政治の態勢立て直しを」。「世界経済が混迷する中でも、日本の国際社会への関与、協力の在り方は、引き続き、見直しを迫られよう」と指摘。「米国にとっての日米同盟の優先度を、高い水準に維持するためには、日本が信頼できる同盟国だと思わせるだけの能動的な外交・安全保障戦略で応えていかなくてはならない」と主張した。また「総選挙があるが、党益より国益、政局より政策を優先し、できるだけ早く〝政治空白〟を解消して、政治の機動性を回復しなくてはならない」と強調した。

日経 「賢く時に大胆に、でも基本は市場信ぜよ(危機と政府①)」。金融・経済危機は「経済活動への政府のかかわり方を根本から問い直している」が、「政府への期待が高まるのに乗じて、規制や権限を強めようという動きが中央官庁や地方自治体の間で活発になっている」ことは憂慮すべき事態だと指摘。「賢くて強く、社会的弱者を守れる政府は必要だが、企業の活力をそぐお節介な政府や、国を借金漬けにする放漫な政府は要らない」と主張した。

産経 「日本人の『流儀』にこそ活路」。世界的な不況でも、日本は実体経済への影響が少ない方だとされているが「日本経済が立ち直るために、米国が金融危機を脱し、健全な消費社会になってもらわなければならない」と注文。それとともに「日本人が培ってきた『流儀』を貫くことこそが、この厳しい世界で生き残る道だ」と論じた。

東京 「人間社会を再構築しよう 年のはじめに考える」。「日本は奈落への渦巻きに落ち込んでしまったのでしょうか。将来不安の貯蓄―消費冷え込み―企業業績悪化―さらなる雇用削減、これでは世界が壊れます」と現状への懸念を表明。弱者が救われるだけでなく、ふつうの人々が安心し恩恵を受けることができる「人間社会」となるべきだと説く。さらに「人間社会」の再構築のためには「どんな社会をめざすのか、政治に何を求めるのか意思表示と政治への監視と参加がいります」と論じた。

明日を生き抜く力に焦点

【連載・企画】 朝日一面「世界変動 危機の中で第2回」、社会面「明日を見つける へこむなニッポン」▽毎日一面「アメリカよ 新ニッポン論 第1部『同盟と自立』」、社会面「孤独の岸辺第2回」▽読売一面「大波乱に立ち向かう」(三日から)、社会面「並んで 並んで」(同)▽日経一面「世界この先 第1部サバイバビリティ」、社会面「暮らし漂流」▽産経社会面「仕事人」▽東京一面「日本の選択点」、社会面「農は国の本なり 第1部」。

【ページ数】かっこ内の数字は二〇〇八、〇七年の順。

▽朝日104(96、100)
▽毎日80(88、88)
▽読売108(112、108)
▽日経114(116、116)
▽産経76(80、100)
▽東京62(70、72)
(審査室)

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