2009年 4月21日
戦後の「歴史的転換」

米大統領の核廃絶演説をめぐる社説
テロの脅威を強く意識

北朝鮮がミサイルを発射した五日、オバマ米大統領はプラハで演説し、「米国は、核兵器を使った唯一の核兵器保有国として行動する道義的責任がある」と、「核のない世界を目指す」決意を表明した。そのために①ロシアと新たな戦略核兵器削減の条約を結ぶ②ブッシュ前政権が反対した包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准する③核拡散防止条約(NPT)体制を強化する、などを挙げた。二十五本の社・論説が取り上げた。

「核信仰」いまだに根強く

《歓迎》長崎「核を信奉し、核廃絶の大きな障壁となってきた米国の指導者による初めての核廃絶構想である。米核政策の歴史的転換であり、核の脅威にさらされてきた人類の歴史の大転換につながり得るものだ。(略)大統領の勇気ある真摯(しんし)な姿勢を高く評価したい。被爆地長崎でも多くの被爆者市民が、核廃絶の道にようやく光が差してきたという思いで、大統領の演説を聞き、歓迎している。核廃絶の訴えが、核保有国の論理で一蹴(いっしゅう)されてきた歴史を振り返れば、感慨ひとしおだろう」、毎日「画期的な演説といえよう。(略)米大統領が自国を『核兵器を使った唯一の国』と規定し、だからこそ核廃絶の先頭に立つと主張する論理は、少なくとも近年の政権には見られなかったものだ」、産経「核保有国が先手を打って核軍縮・不拡散の道を提示し、世界に範を示す政策は正論といっていい」、日経「保有国の核軍縮によってグローバルな不拡散をめざす手法に期待する」。

《懸念》新潟「米国は昨年夏、(NPTに)未加盟のインドとウラン輸出などを可能にする協定を結んだ。NPTをないがしろにするものだ。核大国である米国が勝手に基準を作って核保有を追認し、国際的な取り決めさえ無視してきた。それが核をめぐる現実だ。オバマ政権はブッシュ前政権と異なる取り組みを強調したいのだろうが、まず米国に向けられている不信をぬぐう努力をする必要がある」、読売「具体的な行動が、(略)ミサイルを発射した北朝鮮への対処で、さっそく問われている。大統領は、(略)『再びルールを破った』として、『断固とした国際的な対応を取る』と言明した。国連安全保障理事会でいかなる決定を下すかが、その第一歩となる」、高知「米国内には核に対する『信仰』が根強くあり、軍幹部や議会などから『理想論』といった厳しい批判が出てこよう。核兵器削減には軍需産業の反発も予想される。オバマ構想に対してロシアや、軍事力の増強を進める中国がどう対応するかは分からない。(略)オバマ氏のリーダーシップとともに、米国内や国際社会の世論形成が鍵となるだろう」。

《背景》南日本「世界には現在、二万三千三百個超の核兵器がある。このうち米国が約九千四百個、ロシアが一万三千個を保有する。(略)NPT非加盟のインドやパキスタンが核兵器を保有し、イスラエルも保有が確実視されている。(略)NPT体制の形骸(けいがい)化は否めない。オバマ大統領が演説で『テロリストたちは核爆弾を買い取り、製造し、あるいは盗み取ろうと決意している』と指摘したように、核テロの懸念も高まる。『核なき世界』の提唱は、人道主義に根ざす廃絶運動とは異なり、新しい核の脅威を意識した現実主義的な対応といえる」、北海道「イスラエル、インド、パキスタンと事実上の核保有国は増えている。闇市場も存在し、核がいつテロリストの手に落ちるかもしれない。オバマ氏は『世界規模の核戦争が勃発(ぼっぱつ)する恐れは少なくなったが、核攻撃の危険性は高まった』と指摘した。核ゼロを追求する背景には差し迫った危機感があるからに違いない」、熊本「大統領の演説の背景となったのは、二〇〇七年にシュルツ、キッシンジャー両元米国務長官らが『核なき世界』を目指すべきだと提案したことだ。冷戦後の〝新たな脅威〟に対処するには核を減らしていく以外にないとの主張だった」。

被爆国としての貢献望む

《日本の役割》沖縄「核廃絶が米外交の主流になろうとしているのに、政府・与党の中には、依然として核抑止論を前提にした冷戦思考が根強い。被爆国でありながら核廃絶に向けた取り組みに貢献できないようでは、あまりにも情けない。(略)国際世論づくりこそ日本の出番だ」、中日・東京「日本も唯一の被爆国として、国連や二国間外交の場で核軍縮と不拡散を地道に訴えていきたい」、朝日「同盟国として協力できることは多い。『核のない世界』を実現する政策を、日本からも発信していきたい」、中国「大統領は、世界核安全保障サミットを一年以内に開くと約束した。(略)被爆地ヒロシマでの開催を働きかけることなども、市民レベルでできないか」。(審査室)

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