2009年 5月19日
生存権、9条を軸に

62回目の憲法記念日の社説
改憲論議「1年後は再燃」

憲法施行から六十二年。改憲論議は沈静化しているが、来年五月には改憲の手続きを定めた国民投票法が施行される。憲法記念日をはさんだ五十本の社・論説は、あらためて憲法の理念や改憲の是非について考えるよう訴えた。派遣村に象徴される生存権、北朝鮮ミサイルや海賊対処法案と九条の関係などを取り上げた論調が目立ち、国会論議の停滞批判や次回総選挙の重要性指摘も目に付いた。

理念とかけ離れた派遣村

《貧困と生存権》北海道「憲法二五条は『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』としている。しかし派遣村の光景は国民の生存権が脅かされ、憲法の理念とかけ離れた現実を浮かび上がらせた。(略)貧困にむしばまれた社会を憲法の理念に沿って立て直すときだ」、朝日「右肩上がりの経済成長が続いていた間、国民はほとんど憲法25条を意識することなしに生きてきた。そんな幸福な時代が過ぎ、そこに正面から向き合わなければならない時がきたということなのだろう。(略)より確かな明日を展望するために、やはり日本と世界の大転換期に誕生した憲法はよりどころとなる」、中日・東京「雇う側、使う側の視点から雇われる側の視点へ、効率、コスト優先から人間らしく生きる権利の最優先へ―憲法第一三条、第二五条の再確認が必要です。(略)自民党を中心に広がった幻想のような改憲論が沈静化したいまこそ、憲法に適合した政治、行政の実現を目指したいものです」、中国「六十二年前のきょう、憲法が施行された。貧困の原因は社会の経済制度そのものの中にあり、手当ては国の責務―という姿勢が明快だ。そこで打ち立てられたのが、人間の尊厳に基づく『生存権』だった。空洞化させてはならない」。

《安保・国際貢献》毎日「世界的なパワーシフトの中で、従来の日本の安全保障政策でよいのか、再考する必要がある。(略)どこまで、日米同盟を拡張し強化していくのか、危険な任務も多い平和構築にどこまで踏み込んでいくのか、日本は自分の頭で考え国民の合意を形成しなくてはならない。その場合、ソフトパワーを重視し戦略的に位置づけるべきだ」、日経「PKOなど国連ミッションに参加する自衛官は三十九人。世界で八十位だ。『国際社会において、名誉ある地位を占めたい』とする憲法を持ち、安保理の常任理事国を目指す国とは思えぬ数字である。安倍政権が検討し、福田政権が無視した集団的自衛権をめぐる解釈見直しは当然だろう」、産経「北朝鮮が日本列島越しに弾道ミサイルを発射したのはつい1カ月前だ。(略)国の守りの限界を突き付けられたといってよい。問題の根幹は、自衛隊を軍隊と認めず、国家の防衛を抑制してきたことにある。憲法9条がその限界を作っているのは明らかだ。確実な脅威の高まりに、憲法見直しを避けてはなるまい」、琉球「戦争の惨劇を二度と繰り返さないためには、九条を堅持することが不可欠だ。(略)随時自衛隊派遣を可能にする海賊対処法案も先月二十三日、衆院を通過した。海外では認められていなかった武器使用を一部容認する内容だ。国の最高法規である憲法を骨抜きにしかねない法律と言わざるを得ない。(略)憲法九条の精神をこれ以上ないがしろにすることは自殺行為にも等しく、断じて容認できない」。

次期衆院選が鍵を握る

《国民投票法施行》信毎「国民投票法の施行が来年五月に迫っている。一年たてば、国会は憲法の見直し案を国民に示すことができるようになる。(略)次の総選挙は政治の風景を一変させる可能性が高い。憲法論議も新しいステージに入るだろう。大事な場面が迫っている」、西日本「一年後には政治の場で改正論議が再燃する。次期衆院選の結果によっては、憲法を『変えるか』『変えないか』の判断を私たち国民が迫られる日が案外、早く来るかもしれない。いま、憲法はそんな状況の中にあります」、読売「2年前、憲法改正の手続きを定めた国民投票法が成立した。国民の手で憲法を改正するための画期的な法律である。ところがその後、憲法改正論議は失速した。(略)国会は、改正論議を、サボタージュし過ぎているのではないか」、上毛・日本海など「改正原案を審議する憲法審査会が衆参両院に設置されたものの、与野党対立の中で宙に浮いたままだ。審査会規程の制定は見通しが立たず、立法府としての不作為が続くことは好ましくない」、愛媛「政治の怠慢はせめられるべきだが、もとをただせば生煮えのまま最後は与党単独で強引に押し切ったツケだろう。(略)次の衆院選がそれだけ重要になるということだ。政策の優先順位はともかく、憲法改正問題にどうのぞむのか、少なくとも各党ははっきり打ち出し、国民の関心の醸成に努める責任がある」。(審査室)

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