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2009年 6月2日
感染拡大食い止めよ
新型インフルエンザ対策をめぐる社説
経済への影響、最小限に
新型インフルエンザは急速に世界に拡大、世界保健機関(WHO)は警戒のレベルをフェーズ5に引き上げた。5月末までに感染した人は40以上の国・地域で死者は100人を超えた。日本での国内感染は5月16日、神戸市の高校で初めて確認されて以来、360人を超えた。患者の症状はおおむね軽いが、関西を中心に学校の休校、イベントの中止、旅行のキャンセルなどが広がって深刻な社会問題に発展、このため政府は規制を緩和する新しい対処方針を22日に示した。初の国内感染の確認以後90本を超える社・論説が取り上げた。
脅威の過大視、必要ない
《拡大防止策を》朝日「(兵庫、大阪の)2府県にとどまらず、国内で感染がかなり浸透していると考えざるを得ない。感染の広がりを想定して、医療態勢などの整備を急ぐべきだ」、毎日「ほとんどの人に免疫がないため、重症者が多く出る恐れもある。感染拡大を防ぐ基本対策を国も個人も組織も、徹底したい。(略)国は、個人の行動と医療機関の対応をセットにして、きめ細かい指針を国民に示してほしい」、デーリー東北など「とにかく国内の大流行を食い止めるために、関西での小流行を早く終息させることが大事だ。ここが正念場である。国や自治体は、地域の企業や団体とも協力して、学校や保育園の休校休園、集会やイベントの一時中止、時差通勤や旅行の自粛など、公衆衛生のための規制措置をできる限り実行するしかない」、日経「大流行にしないため、感染者が発生した地域で学校や保育園などを休んだり、イベントを中止したりすることもやむを得ない。感染経路を明らかにするため、感染者と接触した人たちを割り出すことも必要だ。(略)政府や自治体はプライバシーを守ることや経済活動への影響とのかねあいを考えて臨機応変に対策を進めてほしい」。
《対策が過剰では》産経「『念のために』という意識のあまり、対策が少しずつ過剰になっていくと、その集積で、社会機能が停止してしまう事態にもなりかねない。『過ぎたるは、なお及ばざるがごとし』である。行政機関や企業には、過剰な対策を自粛する見識も必要だろう」、北國「大阪府や兵庫県内の動きをみると、知事や市長などが対応に苦慮し、最悪の事態や判断ミスを恐れるあまり、対策の網を広げ、行動制限の方へ流れやすい傾向がみられる。国内感染が急速に広がったため、大きく構えるのはやむを得ない面があるとしても、今後、(略)過剰対応が広がっていけば混乱は避けられない」、読売「従来の季節性インフルエンザも日本だけで毎年約1000万人が感染し、合併症などで約1万人が死亡している。これに対して、日本の社会は冷静に対処してきた。今のところ、『新型』の危険性は『季節性』とあまり変わらないというのが、専門家の一致した見解である。(略)現時点で脅威を過大視する必要はない。社会生活や経済機能への影響は、最小限にとどめるべきだろう」。
《影響は深刻》京都「京都市では五―六月が修学旅行のピークで、すでに五月以降、五百三十校、約八万人のキャンセル・延期が出ているというから驚く。(略)イベントや行事の自粛も目立つ。京都大で予定していたipS細胞のシンポジウムが中止、関西学生野球リーグの同立戦が延期になったのをはじめ、宗教行事や講演会など、中止や延期された催しは多数にのぼる」、沖縄「修学旅行もキャンセルが相次いでいる。19日午後現在71校、約1万1000人。(略)観光業界にとって修学旅行の急激な落ち込みは死活問題だ」。
正しい情報の発信求める
《対策の見直し》信毎「ここまで感染が広がってしまった以上、現状に即した当然の措置といえる。新型は比較的症状が軽く、季節性のインフルエンザと同程度と見られている。もはや致死率60%の鳥インフルエンザを想定してつくられた行動計画を続ける必要はないだろう。社会生活や経済活動への影響を考えれば、デメリットがあまりに大きい」、中日・東京「新型インフル対策で求められるのは、感染拡大の防止とともに、社会や経済への影響を最小限に抑えるというバランスだ。(略)感染者が出た大阪府の学校の職員がタクシーの乗車を拒否されたり、感染していない生徒の家族が病院から診療拒否される事態も起きている。これらを防ぐためにも政府は、繰り返し正しい情報を発信し続ける必要がある」、神戸「現実を後追いする形とはいえ、社会が落ち着きを取り戻すきっかけにしたい。神戸で国内感染がわかって一週間。(略)温泉街では臨時休業した旅館もある。シーズンたけなわの修学旅行のキャンセルも相次ぐ。経済的損失は計り知れない。これ以上、感染を拡大させないこととともに、自粛ムードをどう振り払うかが次の課題になる」。(審査室)