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2009年 8月25日
核廃絶の流れ逃すな
終戦記念日に寄せた社説
衆院選、安保の視点も大事
64回目の終戦記念日。今年は、オバマ米大統領が4月のプラハ演説で核兵器廃絶への決意を表明するなど、世界の人々が待っていた流れが見え始めている。一方で、北朝鮮の5月の核実験といった懸念材料もある。30日投開票の衆院選では、集団的自衛権や戦没者追悼施設をめぐる議論も交わされている。「8・15」を迎え、52本の社・論説が平和を主張した。
アジアと協力して平和を
《新たな胎動》秋田「衆院選は政権交代がかかる。有権者の関心は年金・医療、景気対策、財源など内政に向きがちだが、外交・安全保障も重要なことは今更指摘するまでもない。この意味でも今年の『終戦記念日』は例年とは違うのである」、岐阜・日本海など「今年の終戦記念日は国際的にも新たな胎動を感じさせる中で迎えた。オバマ米大統領の『核のない世界』演説を契機に、核廃絶への希望が芽生えてきたからだ。平和を愛する人々と手を携え、大きな輪に広げたい。一方で、北朝鮮の核問題に対抗する形で核武装論が国内にくすぶっていることは警戒したい」、京都「(核廃絶を)夢物語とみる向きもあるが、手詰まり感が漂う中、理想主義の衣をまとった現実主義に国際社会が支持、共感したのではないか。平和を求める国の人々と同じように、オバマ大統領の『イエス、ウィー・キャン(われわれはできる)』の言葉に寄り添いたい」。
《平和求めて》新潟「戦争の記憶が年々遠くなるのはいかんともしがたい。重要なのは記憶を国民の体に流れる『平和の思想』へと高めることだろう。いつの時代にも、代替わりを重ねても、日本人の精神性の一部として持ち続けたい」、朝日「社会の中で薄れてゆく記憶を、つくりなおす。世代を超えて橋を架ける作業がいくつも進められている。ごく普通の人が、国の誤った道に巻き込まれ、極限の状況下で、加害者にも被害者にもなる。無名の元兵士たちが若者に語り残すのは、そうした戦争のリアリティーだ。その集積を、日本が二度と過ちを繰り返さないための共有財産にしてゆこう」、北海道「日本は先の戦争で軍部の独走を許し、多くの住民や兵士が死んだが、中国や朝鮮などアジアの人々にも大きな犠牲を強いた。北朝鮮の核実験を挙げるまでもなく、複雑な国際社会にあって平和は日本だけでつくれない。なお残る戦争のわだかまりを乗り越え、アジアの人々との協力関係を築きたい」、毎日「終戦記念日の主張として、日本を低エネルギー消費の国にしようというのは、やや奇異に映るかもしれない。しかし、日本の平和と安全にとってぜひ必要なことだ。気候変動の脅威とエネルギー需給の不確実性、さらには食料問題。こうしたグローバルな脅威を完全に遮断することはできないが、少なくとも低エネルギー社会化で『打たれ強い国』にすることはできる」。
《日本のかたち》産経「変えるものと変えるべきでないものを整理して示す必要がある。戦禍の廃虚から立ち上がった先人たちは豊かな国を見事に築き上げた。だが、肝心の国のかたちは抜け落ちてしまった。心を一つに力を合わせ国家の心棒を立て直すことが現在と将来の危機を乗り切る原動力となる」、読売「(靖国)神社側が(A級戦犯の)分に応じない限り、選挙の結果がどうであれ、国立追悼施設建立に向けての議論は、勢いを増していくだろう。国のために尊い命を犠牲にした人々の追悼のあり方について、改めて国民的な議論を深め、結論を導き出す時期に来ているのではないだろうか」、高知「唯一の被爆国でもある。戦争を正面から見つめ、世界で一番、息の長い『語り部の国』にならねばならない」。
体験を引き継ぐ意味増す
《やるべきこと》中日・東京「国が滅びた昭和の戦争で三百十万人の日本人が命を失いました。その一人ひとりへの鎮魂、悔恨や懺悔(ざんげ)、謝罪と贖罪(しょくざい)の念が込められての憲法九条。その平和主義が戦後日本の国是となり、アジア諸国への約束となったのは当然の国民の合意でした。人口の四分の三が戦後生まれとなった今もこれからも、引き継がれるべき忘れてはならない歴史です」、日経「無謀な戦争で国中が焼け野原になった。だが、そこから不屈の精神で経済復興を成し遂げた日本だからこそ、国際社会で果たすことができる役割があるはずだ。世界的な軍縮や地域紛争の抑止といった平和構築のための活動への取り組みはまだまだ不十分である」、琉球「悲惨な沖縄戦は、県民に平和の尊さと反軍と反戦の教訓を残した。沖縄は戦争のための要石ではなく、平和の要石でありたい」、中国「戦争の時代を生き抜いた人たちの体験は、まだ十分に聞ける。語り継ぎ、聞き継ぐ意味はこれまでになく増してこよう」。(審査室)