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2009年 12月8日
無駄へ切り込み評価
事業仕分けをめぐる社説
基準や手法に疑問残る
国民に公開された行政刷新会議の事業仕分けは11月27日、計9日間の日程を終えた。仕分けに当たったのは7人の国会議員と50人以上の有識者ら。3兆円の捻出(ねんしゅつ)を目指し約450事業を対象にした結果、「廃止」や「縮減」などに加え、基金の返納も含め1兆8千億円前後を捻出した。仕分けの基準や手法に懸念も少なくなかったが、世論調査では軒並み70%以上の高い支持を得た。100本を超える社・論説が論じた。
税の使途への関心高めた
《画期的》高知「民間有識者も入った3グループによる仕分けはインターネットで中継された。『密室』で行われていた予算査定の過程が公開されたこと自体が画期的であり、税金の使い道に対する国民の関心を高めたことは評価できる」、毎日「かくも徹底した査問になるとは、所管省も予想しなかったのではないか。予算計上をめぐり容赦ない批判が民間や国会議員の仕分け人から浴びせられ、ほとんどの事業が見直しを迫られた。ネットの同時中継にアクセスが殺到し、関心の高さを裏付けた。感情に走ったやり取りも確かにあったが、予算を国民に身近なものにした意味で、新鮮だ」。
《無駄の構造》西日本「無駄を生んでいる数々の構造をあぶり出したことは、大いに評価したい。一つの事業を行うのに、官僚の天下り先である独立行政法人(独法)や公益法人がいくつも間に入る。対象者に補助金が届く前に、天下り役員らの高い給与などに税金が消えていく。こんな『中抜き構造』が多くの事業で指摘された。独法や公益法人にため込まれた巨額の基金もやり玉に上がった。(略)複数省庁で似た事業が重複しているのは縦割り行政の弊害の典型だ」、中日・東京「国民から見れば、縦割りの省庁がそれぞれのOBを養うために法人をつくっているとしか映らない。こうした構造は霞が関全体に広がっているが、実態が覆い隠されてきた」、朝日「(成果の)一つは、予算を求める側には本来、その必要性をきちんと説明する責任があると示したことだ。また、いったん始まったらまず見直されることのなかった既存の計画にも大胆に切り込んだこともある。たとえば、宇宙開発委員会で経済性や将来性に厳しい指摘が出たのに、自民党の一部議員の主張で続いていたGXロケットを『見送り』とした」。
《手法に疑問》産経「約1時間で1事業に結論を出すのはあまりに拙速だ。『仕分け人』はすべての事業に精通しているわけではないだろう。限られた時間に矢継ぎ早に質問を浴びせかけ、官僚が答弁に窮すると『不要』との判断に持っていくようなやり方は『人民裁判』との批判も出ている」、新潟「対象事業は財務省主導で決まった。なぜ選ばれたのか、客観的な基準が示されているとはいえない。これでは恣意(しい)的になる危険性がある。民間仕分け人の選任基準や権限もよく分からない」、読売「事業仕分けの対象である447事業に、在日米軍基地に関する防衛省の『思いやり予算』などが含まれたのは解せない。日米安保体制にも影響する政治的な予算である。(略)義務教育費の国庫負担や、地方交付税など、国の在り方にかかわる大きな案件も、こうした場で取り上げるのは適当ではない」。
地方の実態は踏まえたか
《地方の不満》信毎「地方交付税に『制度の抜本的な見直し』を求めたほか、農道整備事業に『廃止』、下水道事業に『地方移管』などの判定が相次いだ。全般に知事や市町村長から、地方の実態が分かっていないといった声が強まっている。国と地方の財政は、それぞれの役割分担を明確にしたうえで論議すべき課題である。幹となる基本方針を示さないまま、無駄の削減と言われても、地方の不安をあおる結果になりかねない」、山形「十分な説明が見えないまま、一方的通告のような印象を与える手法が不満を広げ、せっかくの芽を摘み取り、夢や意欲をそぐような結果になっていないか。本県でも山形大の有機エレクトロニクス(EL)に関する研究への支援を含む事業が『廃止』とされ、山形交響楽団が利用してきた『子どものための優れた舞台芸術体験事業』が『圧倒的な縮減』などと判断された」。
《政治の責任》上毛・日本海など「税金の使い道の審査は本来、有権者に選ばれた議員が国会の場で行うべきものだ。事業仕分けが評価されるのは、国会が機能を果たしていないことの証しでもある」、日経「事業仕分けは単に予算額を削るための枠組みではない。これは現場や一般の感覚で見た予算や制度の総点検だ。具体的な予算に仕上げていくのはまさに政治の責任である。(略)仕分けの成果を十分に生かし、旧態依然の予算構造を質の高いものに変えてほしい」。(審査室)