2010年 1月12日
混迷の時代...知恵は

在京6紙の新年号紙面
鳩山内閣へ懸念相次ぐ


鳩山内閣は問題山積のまま新年を迎えた。一方、中国やインドなど新興国の台頭は著しく、国際情勢の流動化が進んでいる。在京紙の元旦紙面は、こうした日本国内と世界の急激な変化を追う現場報告が多く、混迷の時代を生き抜くための知恵や工夫を求める姿勢が顕著だった。

読売が独自ダネ、5紙が連載

【1面トップ】読売は独自ニュース、朝日、毎日、産経、日経、東京は連載企画だった。

読売 「『小沢氏から現金4億円』。土地代の相談後 石川議員供述」。民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」が2004年に購入した土地代金4億円を、政治資金収支報告書に記載しなかった問題で、東京地検に事情聴取された石川知裕衆院議員は小沢氏から「現金で受け取った」と供述していることが分かった。小沢氏はこれまでの会見で「資金のことは聞いていない」と述べており、本人の関与が明らかになるのは初めて。特捜部が小沢氏本人から任意で事情を聴くかどうかが今後の「焦点」とした。

朝日 連載「日本 前へ」。日本人、日本ブランド、日本企業が変わりつつある。その変化の現場を各地に追う企画。アフガニスタンの国費留学生として京都大で学んだレシャード・カレッド医師は、日本国籍を持つ静岡県島田市の開業医。毎年、年末にアフガンに入り、医療現場で現地の医師にアドバイスする。一方で島田市の医師会会長も務め、地域医療の改善にも尽力する。中国の杭州市郊外。東芝は、パソコンの高級品はすべてここの工場で生産する。従業員2400人。組み立てラインはフル操業だ。

毎日 連載「ガバナンス 国を動かす」。政権交代で政治家と官僚の関係も急激に変わりつつある。その現場報告。経済産業省から政府の国家公務員制度改革推進本部に出向中の古賀茂明氏は、昨年の衆院選の5日後、仙谷由人氏から都心のホテルに呼び出された。古賀氏は急進的な官僚機構改革の提唱者。仙石氏は入閣したら「手伝ってほしい」と告げた。内閣審議官兼行政刷新担当相補佐官のポストも用意したが、この人事は財務省の反対で実現しなかった。新政府の設計図は何度も書き換えられた。

日経 連載「ニッポン復活の10年」。再生する米国、改革する欧州、飛躍するアジア、日本はこのままなら衰退の瀬戸際という認識の下に、復活のための知恵と工夫を紹介する。東京・秋葉原の「高齢社」は登録360人がすべて60歳以上の人材派遣会社。南アルプスを望む長野県下條村は出生率が国内でもトップクラス。東京・築地の国立がんセンター中央病院。がんの検診技術は日本の最先端で、正月明けからアジアの患者が相次ぐ。

産経 連載「巨竜むさぼる」。副題に「中国式『資源』獲得術」。世界各地にエネルギー、鉱物、食糧を求めて進出する中国。スーダンでの活動を追った。内戦終了後、国連部隊1万人が平和維持活動に当たっているが、その駐屯地に中国の国旗・五星紅旗がはためいている。基地内の医療施設「中国維和医療隊」の旗だった。スーダンの輸出の95%は石油。その輸出量の75%を買っているのが中国だ。一方米国はスーダンをテロ支援国家に指定し、経済制裁を科している。

東京 連載「常識革命」。経済成長、大量消費、米国一辺倒の外交など、戦後の常識が通用しなくなり、今年は「常識革命の年」。それを実践している人を紹介する。まず足立区の開業医和田龍蔵さん。この16年、ホームレスを無料で診療してきた。従来の常識は「難しい病気を先端医療で治す」。和田さんの新しい常識は「医療弱者の救済にこだわる」。

政治・外交・経済で実行力問う

【社説・論説】鳩山内閣への懸念が目立った。

朝日 「激動世界の中で より大きな日米の物語を」。安保と憲法9条の組み合わせは日本国民に安心感を与え続けてきた。アジアの国々に対しても「安心の源」と指摘。「日米の歴史的なきずなは強く、土台は分厚い。同盟を維持する難しさはあっても、もたらされる利益は大きい」と評価した。その上で、「アジアかアメリカか」の二者択一さながらの問題提起は正しくないとし、「むしろ日本の課題は、アジアのために米国との紐帯(ちゅうたい)を役立てる外交力である」と論じた。

毎日 「2010再建の年 発信力で未来に希望を」。奈良時代は唐や新羅との交流も盛んで、国際的にも開かれていたが、文化を創造し発信する力も持っていた。21世紀の日本も奈良時代に学び、国際的な発信力を高める長期戦略が必要だ。政権交代そのものが海外への強い発信になったが、「問題は実行力」と指摘。地球温暖化や核廃絶でも各国を説得する行動が伴わなければならない。そのためにも普天間問題で揺らいでいる日米の信頼関係を確固としたものに回復する必要がある、と主張した。

読売 「『ニッポン漂流』を回避しよう 今ある危機を乗り越えて」。政治・外交・経済の分野で、鳩山内閣を厳しく批判した。国民が抱くさまざまな不安の主な原因は「鳩山連立政権が日本の平和と繁栄、安心社会を維持するための、中長期の国家戦略を欠くうえに、当面の指針すら国民に明示できないことにある」と断じた。国際的にはアジア太平洋の平和と安定のためにもアメリカとの関係強化が不可欠、と主張。マニフェストに固執するあまり、政策の優先順位を決められず、右往左往している、と指摘した。

日経 「未来への責任① 繁栄と平和と地球環境を子や孫にも」。団塊の世代670万人は「高度成長期に育ち、平和と繁栄を謳歌(おうか)した」。しかし、「子や孫は、親や祖父母より幸福な人生を送れるだろうか」。冒頭にこう問い掛けた。社会保障や年金・医療、環境、日米同盟などに言及し、「われわれ現世代は子や孫の世代を犠牲にして、繁栄や平和をたのしんではいないだろうか。自分たちが生み出した問題は自分たちで処理する。それが未来への責任だろう」と論じた。

産経 「年のはじめに 『国思う心』が難局を動かす」(論説委員長論文)。まず、白村江(はくすきのえ)の戦い(663年)で唐・新羅軍の捕虜になった日本軍兵士のエピソードを紹介し、「愛国」とは「国を思う心」を指す、とした。鳩山内閣が東アジア共同体構想を提起し、民主党は対中接近策をとっていることに懸念を表明し、「米軍の抑止力がこの国の平和と繁栄を維持してきた」と強調。「国民を守り、国益を実現する国政の最高の責務は首相しか担えない。『友愛』より『国思う心』で難局を乗り越えてほしい」と注文した。

東京 「支え合い社会の責任 年のはじめに考える」。市場原理主義は企業に厳しい競争を強いて、「年功序列や終身雇用の日本的慣行を捨てさせ」た上に、「不安定雇用と低賃金労働」が格差を拡大した、と分析した。しかも、人々の行動と考え方をカネ万能へとゆがめたと指摘。天皇が即位20年に臨んでの記者会見で「みなが支え合う社会」を願われたことを紹介し、「そこに明日の希望がみえます」と記した。

日本の行く末、各紙のテーマに

【連載・企画】 朝日1面「日本 前へ」、社会面「探嗅(たんきゅう)」
▽毎日1面「ガバナンス 国を動かす 第1部政と官」、社会面「再生のとき 第2回」
▽読売1面「日本の針路 第1部識者は語る」(3日から)、社会面「学力考 第1部混乱の代償」(同)
▽日経1面「ニッポン復活の10年」、社会面「老いを生きる 第4回」
▽産経1面「巨竜むさぼる 中国式『資源』獲得術」、社会面「キブンの時代 第1部考えはどこに」
▽東京1面「常識革命」、社会面「介(たす)け合い戦記 介護社会第3部」
【ページ数】かっこ内の数字は2009、08年の順。

▽朝日100(104、96)
▽毎日76(80、88)
▽読売104(108、112)
▽日経100(114、116)
▽産経80(76、80)
▽東京62(62、70)
(審査室)

ページの先頭へ