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2010年 3月16日
選手の育成策見直せ
バンクーバー冬季五輪をめぐる社説
安全軽視の設営に警鐘
バンクーバー冬季五輪は2月12日から17日間、史上最多の82か国・地域が参加して熱い戦いを繰り広げた。女子フィギュアの日韓対決は韓国の金妍児(キムヨナ)選手が金、日本の浅田真央選手は銀メダル。日本勢はスピードスケート男子、女子団体追い抜きで銀、銅を獲得するなど前回トリノ五輪を上回る成果を上げたが、スキーなど不振続きの種目も多く、選手の育成強化が問われた。運営面では選手の死亡事故もあり安全対策など課題を残した。50本近い社・論説が取り上げた。
悔し涙は明日への糧に
《戦い終えて》朝日「五輪の長い歴史の中でも欧米勢の独壇場だった女子フィギュアで、アジア勢が2人表彰台に立ったのは初めてのことだ。2人の19歳を心からたたえたい」、読売「現時点での実力は、金妍児選手が一枚上だったということだろう。浅田選手は『悔しい』と語った。この経験を生かして技を磨き、4年後のロシア・ソチ五輪では満面の笑みを見せてほしい」、岐阜・日本海など「『よくやった』などの慰めは逆に失礼だ。『銀』は超一流の選手にとって負けであり、敗因の総括からしか、次の4年間への一歩は刻めない。悔し涙の中にしか明日への糧はないのだ」、北日本「スピードスケート女子団体追い抜きで日本が銀メダルを獲得した。(略)頂点にこそあと一歩で届かなかったが、あっぱれだった。田畑、穂積両選手には笑顔で富山に凱旋(がいせん)してほしい」、神戸「スピードスケートが元気になったのは明るい材料だが、『お家芸』だったジャンプや複合競技などで若手が台頭してほしい」、西日本「かつては『お家芸』とまでいわれたスキーのジャンプや複合では、世代交代の失敗などもあり、メダルなしに終わった。期待の高かった女子モーグルも含めて、スキー競技は2大会連続でメダルを逃す結果となり残念だ」、東奥「カーリングの母国・英国を破り、強豪ロシアを0―6から大逆転で下すなど、随所に見せ場があった。(略)国民のカーリング人気を一段と盛り上げ、認知度を高めたことは『敢闘賞』ものである」。
《育成・強化を》北海道「強豪国の選手、チームは五輪に焦点を合わせて調整し、成果を挙げていた。日本の強化策、コンディション調整に問題はなかったか。きちんと検証し、改善してほしい」、秋田「日本の競技環境は心もとないとよく指摘される。不況で企業支援は先細り、個人レベルで奮闘しているケースもある。昨年11~12月、国の事業仕分けでスポーツ予算の縮減が話題に上ったことは記憶に新しい」、福島民友「わが国の競技環境となるとお粗末だ。スピードスケートやスキーなど企業が支えてきた競技は不況下であえぐ。国の活力につながるスポーツは現状でいいのか。政府、企業も一体となって見つめ直さないと、遅れは取り戻せない」、中国「不況などによる企業チームの縮小。自治体の財政難。こうした事情もあり、ジャンプやスピードスケートといった花形でも育成費などの調達に頭を悩ませる。今回、ベテランの出場が目立ったのも、裏を返せば競技人口の先細りで、世界と競える若手が少ないということだろう」、高知「1998年の長野五輪後、ジャンプ陣の不振が続いていることも、北海道の地元企業が相次ぎ支援から撤退していることと無関係ではあるまい」、琉球「昨年の行政刷新会議の事業仕分けで民間スポーツ振興費等補助事業が『縮減が妥当』とされ、関係者の反発を招いた。どの競技であれ世界の強豪と戦っていくには強化策充実は欠かせないだけに、政府には今以上の後押しを求めたい」、産経「国旗を背負うオリンピック代表選手の活躍は、国民に誇りと活力を与える。健全なナショナリズムの発露である。とくに金メダルの価値を軽視してはなるまい。(略)ひたむきな精神をもつ選手を今後も育てたい」。
巨大化で資金面に不安
《運営に課題も》毎日「大会直前にソリ競技会場でリュージュ選手の死亡事故が起きた。映像的な魅力を増すための高速コースが招いた事故との指摘がある。安全軽視の設営に警鐘が鳴らされたと受け止めるべきだ」、中日・東京「ますます巨大になり、それに伴って開催費用や警備態勢が膨らみ続けている五輪。今後、環境面や不透明な経済情勢とどう折り合いをつけていくのか。視界不良の将来が、今回は雪不足や資金面の不安という形で姿を現したのだ。巨大な存在ゆえの難問はほかにも数多い。(略)オリンピックのあり方そのものをどう考えていくかという根本的な問いへとつながっていく」、宮崎「今回の五輪では開、閉会式ともに初めて室内で行われた。新種目採用をとっても最近の五輪は見栄え、つまり映像が優先されている感じがする。自然と闘う素朴な冬季競技の原点に立ち返ってほしい」。(審査室)