2010年 8月10日
政治主導が見えない

11年度予算の概算要求基準をめぐる社説
一律1割削減も指針なく

菅政権は7月27日に閣議決定した2011年度予算の概算要求基準に基づき、予算編成を開始した。鳩山内閣で要求基準が廃止され、予算規模が膨れた経緯がある。社会保障費などを除き、各省庁の要求額は前年度比で10%削減が求められ、新成長戦略や政権公約実現のために1兆円を相当程度超える特別枠が設けられることになった。政治主導の予算編成を目指しているが、要求基準には閣内にも異論があり、調整を迫られている。41本の社・論説が取り上げた。

聖域作らず効率化を

《10%削減》 神戸「政策経費を一律10%削減すれば2兆円強になる。だが社会保障費の増加分を除けば、残りは約1兆円しかなく、民主党の求める額には届かない。政策経費の中には、公務員の人件費など省庁の判断だけでは削れないものも含まれている。一律10%削減すら、実は容易なことではない。各省庁がよほどの覚悟を持って臨まなければならない」、日経「公共事業費は10年度に18%減らした。必要度の低い事業は多いが、大都市圏の幹線道や主要空港など成長の礎となる分野は進めたい。公共事業費をさらに10%減らすとしてもメリハリを確保する明確な方針がなければ、成長の観点から問題だ」、産経「社会保障費と地方交付税交付金を一律削減の例外としたのもおかしい。この2つの歳出で一般会計歳出全体の半分近くを占める。今後の予算編成ではこれらの分野を聖域化せず、徹底的な効率化に取り組む必要がある」、熊本「10年度で公共事業の削減目標を達成した前原誠司国土交通相や、戸別所得補償制度の拡充を目指す山田正彦農相など、一律削減への反発は閣内にもある。着地点をどう見いだすか、首相の指導力が試される。もし党代表選をにらんだ駆け引きの材料になるようなら、政権は一挙に信を失うだろう」。

《特別枠》 南日本「仮に削減が達成できたとしても、特別枠の扱いが気になる。間口が広すぎて、どんな事業が対象になるのか中身が見えない。何でもありならば各省庁が削減した事業の名前を変えて特別枠で復活を狙う可能性もある。『看板の掛け替え』『ラベルの張り替え』で済ませては、政治主導による予算の大幅組み替えは掛け声に終わる懸念がある」、読売「医療・介護や環境など、成長分野に予算を重点配分するための特別枠を設けるが、公開の席で優劣を競う『政策コンテスト』で配分先を決めるという。政治的なパフォーマンスが目立った『事業仕分け』に似た手法といえる。菅内閣の支持率低下を挽回(ばんかい)する狙いもあるのだろうが、そうした場で冷静な議論ができるとは思えない。予算編成を人気取りの手段にしてはなるまい」、陸奥「各地の首長は一律1割カット方針に懸念を示し、特別枠からの地方関連予算の配分に期待しているようだ。コンテストでは、聞き心地の良い『都市の論理』ばかりが幅を利かせず、地方の真摯(しんし)な要求が反映されるよう求めたい」、朝日「民主党が政権交代時に掲げたマニフェストの目玉政策も政策コンテストにかけてはどうか。高速道路無料化、子ども手当、農家の戸別所得補償などだ。兆円単位の歳出増が伴うこれらの政策を古い工程表通りに実現するには無理がある。国民に事情を正直に告げ、コンテストで既存政策と比べ、優先度の高さを決めればいい。推進すべきものと断念すべきものが見えてくるはずだ」。

与野党協議、活発に

《政治主導》 京都「特別枠は民主党政策調査会が主張したものだ。政策決定の内閣一元化は崩れ、司令塔として期待された国家戦略室も格下げされた中で、政治主導の道筋が見えなくなっている。財務省の池田元久副大臣が『形の上で政治主導を見せるというか、官邸、党も関与して丁寧にやった』と口走った裏には、やはり財務省主導の動きがあったからだろう」、毎日「どんな政策に予算を優先配分するのか、どの分野を大胆に削るのかといった大きな方針を、国民に選ばれた政治家が示すことこそ政治主導であるはずだ。それが『1割削減』と決めただけで、削り方に関する政権の明確な指針はなく、各省庁に丸投げしている」、中日・東京「政府が自民党はじめ野党の言い分に耳を傾けずに作業を進めても、来年の通常国会で予算案の裏付けになる予算関連法案を参院で可決成立できる見通しはない。関連法案が否決されてしまえば結局、予算は執行できない。そんな現実を直視するなら、政府・与党は予算編成段階から野党と政策協議に踏み込むべきではないか。それが政治主導にもつながる」、新潟「政治主導が実現できるかどうかの瀬戸際の予算編成だ。衆参ねじれ状況で与野党がいかに有意義な議論ができるか。国会の真価も問われる」。(審査室)

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