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2010年 9月28日
外交判断の甘さ露呈
尖閣で船長逮捕・釈放をめぐる社説
日中関係悪化、長期化か
海上保安庁は8日、東シナ海の尖閣諸島領海内で停船命令に従わず巡視船に衝突した中国トロール船の船長を公務執行妨害容疑で逮捕した。中国は強く反発し、日中関係は一気に冷却した。石垣簡裁が19日、船長の10日間の拘置延長を認めると、中国は民間交流の停止やレアアースの事実上の輸出ストップ、日本の建設会社社員4人の拘束などの措置をとり、事態は深刻化した。那覇地検は24日船長を処分保留で釈放したが、中国は謝罪と賠償を要求、関係悪化は長期化の様相を呈している。船長逮捕から釈放まで100本を超える社・論説が論じた。
検察釈放決定に不透明さ
《経緯》 中国「事件は7日に発生した。領海外への退去を何回も警告された中国船が巡視船に接触して逃走。追いかけた別の巡視船に体当たりし、4時間後に停船命令に応じた。乗組員にけがはなかったが、人命にかかわる危険な行為だ。しかも2回もぶつかるなど、極めて悪質である。誰が指示し、どんな狙いで体当たりを繰り返したのか。徹底した解明が必要である」、北國「中国の一般漁民がわざわざ日本領海に侵入し、危険を犯して巡視船に体当たりするはずがない。乗組員は特別な訓練を受け、政府の命令を受けて動く『海上民兵』と呼ばれる軍人だろう」。
《日本の領土》 熊本「尖閣諸島は、明治政府が他国の支配が及んでいないことを確認した上で1895年に領土に編入。第2次大戦終結後には米国の施政権下となったが、1972年に沖縄とともに返還された。現在は無人だが、かつては住民が建設した舟着き場や、かつお節工場などがあった」、北日本「中国側は尖閣諸島を『自国領』だと主張しているが、そう言い出したのは1971年のことだ。国連アジア極東経済委員会が行った海洋調査で、尖閣諸島近海海底に埋蔵量豊富な油田がある可能性が高いと発表してからである」。
《冷静に》 読売「中国のインターネット上では、日本を非難し、船長を英雄視する『反日・愛国』世論が盛り上がりをみせている。ネット世論が混乱を煽(あお)った5年前の『反日』暴動を再現させるようなことがあってはなるまい。中国側に冷静な対応を求めたい」、山形「中国側の対日批判が強まり、地方レベルや民間レベルの交流事業にも影響が出始めているが、本県関連では来月14日から黒竜江省ハルビン市で『山形県食品フェア』が開催される予定だ。こうした時だからこそ、ぜひとも成果を挙げてもらいたい」。
《船長釈放》 産経「勾留(こうりゅう)期限まで5日残しており、法の手続きを無視した事実上の超法規的措置といえる。釈放にあたり、那覇地検次席検事は記者会見で『わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した』と説明した。法に基づき事件を厳正に処理すべき検察当局が『外交上の配慮』を述べるとはどういうことか。(略)国際社会も日本が中国の圧力に屈したと判断する。これほどのあしき前例はなく、その影響は計り知れない」、毎日「釈放によって、日中の緊張した関係が緩和される方向に向かうことを期待したい。しかし、逮捕以降の一連の経緯を踏まえると今回の決定には不透明さがぬぐい切れない。(略)検察は外交配慮を自らの判断で決めたと言うが本当にそうだろうか。事実とすれば検察が外交に口を出したことの当否が問われる」。
外交立て直しは急務
《重い課題》 中日・東京「日本が実効支配する尖閣諸島への主権をないがしろにした、将来に大きな禍根を残す歴史に残る愚かな決定だ。(略)たじろいで弱みを見せれば、ますます中国は強気になる。こうした中国外交の基本について政権には経験を持つ政治家も指南するブレーンもいなかった。今回の事件で明るみに出た欠陥を克服しなければ今後も日本外交は痛ましい失策を重ねるだろう」、朝日「圧力をかければ日本は折れるという印象を中国側に与えた可能性もある。それは今後、はっきりと払拭(ふっしょく)していかなければならない。そもそも菅政権は最初に船長逮捕に踏み切った時、その後の中国側の出方や最終的な着地点を描けていたのか。船長の勾留を延長した判断も含め、民主党外交の甘さを指摘されても仕方ない。苦い教訓として猛省すべきだ」、高知「船長釈放で一件落着とはならない。国民感情も含めて、悪化した日中関係の立て直しはむろん、今回のような危機に即座に対応できる対話のメカニズム構築が緊急の課題となる。両国政府に課せられた重い宿題だ」、日経「今回の問題はアジアの海に多くの火種が潜む現実をあぶりだした。これらの問題に対応するには日米の結束や、中国の軍拡への懸念を共有する東南アジア諸国との連携が欠かせない。一方、中国との対話も深める必要がある。菅政権は早急に外交を立て直さなければならない」。 (審査室)