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2010年 11月16日
両国の関係損ねる暴挙
ロ大統領の北方領土訪問をめぐる社説
外交の立て直し図れ
ロシアのメドベージェフ大統領が1日、北方領土の国後島を訪問。日本政府はロシア駐日大使を呼び抗議、駐ロ大使を一時帰国させた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日ロ首脳会談でも菅直人首相が正式に抗議したが大統領は反論、平行線に終わった。40本を超す社・論説が訪問を厳しく批判するとともに、日本外交の立て直しを求めた。
経済協力の後退も不可避
《容認できない》 中日・東京「北方四島はロシアに占拠され、日本が返還を求める固有の領土だ。大統領の訪問は両国関係の発展を損なう暴挙であり、厳重に抗議したい」、北海道「ある日突然、侵攻してきた他国の軍隊に家と土地を奪われ、追い出された。返還を待ち望んでいたら65年後、その国の大統領がやって来て『ここはわれわれのものだ』と胸を張った―。旧ソ連軍による北方領土占領で四島から追われた元島民が今回直面したのは、そうした事態だ。(略)元島民らの心を踏みにじる身勝手な訪問は、断じて容認できない」、信毎「沖縄県の尖閣諸島をめぐり中国との間に深刻な亀裂が入ったばかりである。日本にしてみれば、自重を求めてきたのに、それを無視しての大統領による訪問強行は、中国との対立でできた傷口に塩をすり込まれるような出来事だ」、産経「日本固有の領土である北方四島の不法占拠を固定化する暴挙であり、断じて認めるわけにはいかない。日本政府は最大限の対抗措置を取らなければ、北方四島返還が画餅(がべい)に帰すことを認識すべきだ。(略)このままでは、侵略された日本の領土が『ソ連が解放した領土』と捏造(ねつぞう)され、世界に喧伝(けんでん)されることになる」。
《解決遠ざける》 毎日「メドベージェフ大統領は6月の菅直人首相との会談で『双方に受け入れ可能な、建設的な解決を模索していきたい』と述べたばかりである。しかし、今回の訪問が『建設的な解決』を遠ざけるだけでなく、日本が領土交渉とともに『車の両輪』としてきた経済分野での協力関係も後退させるのは避けられまい。ロシアも大きな損失をこうむることを認識すべきである」、朝日「領土問題は、互いの歴史や国民感情と複雑に結びついており、解決が極めて難しい。だからメドベージェフ氏自身が、静かな環境で話し合う必要を強調してきた。北方四島の帰属問題を交渉で解決することを、ロシア政府も日本政府と何度も合意している。(訪問強行は)これまでの交渉の成果をほごにしかねない乱暴なやりかただ」。
《足元見られた》 読売「民主党政権は、昨年の発足以来、米軍普天間基地の移設問題で日米関係にきしみを生じさせた。最近では、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をきっかけとした日中関係の険悪化に対しても有効な手を打てないでいる。ロシア側は、民主党政権による外交政策の混迷、混乱の足元を見て、日本の北方領土4島返還要求を牽制(けんせい)したと言えよう」、日経「領土問題をめぐる大統領の強硬な姿勢を読み切れず、対ロ外交をなおざりにしてきた民主党政権にも対応のまずさがあった。米軍普天間基地の移設問題で日米同盟が揺らぎ、尖閣諸島沖で起きた中国漁船の衝突事件でも、日本政府がふがいない対応を見せるなか、ロシアが日本外交の定見のなさを突いてきた面も否定できない」、神戸「次々に持ち上がる難題を前に右往左往している感がある日本外交の現状には強い懸念を覚えざるを得ない。(略)菅直人首相は危機感をもち、ほころびを見せる外交力の立て直しに全力を挙げねばならない」。
東アジアの安定へ正念場
《戦略練り直せ》 上毛・大分など「日ロ領土交渉がここ数年、停滞しているのも確かだ。(略)昨年9月に民主党政権に代わってから、現職首相のロシア訪問は一度も行われていない。今回の件で日ロ関係の後退は避けられそうにないが、菅直人政権は日本の対ロ外交に『抜かり』がなかったかどうか、あらためて点検する必要がある。その上で、領土問題に臨む決意と戦略を固め、対ロ交渉をリセットしなければならない」、西日本「ロシアはシベリアや極東地域の振興のため、日本や中国からの投資を呼び込んで経済発展を目指す構想を描いている。領土問題で日本と対立し続けることが得策ではないことを、ロシア側に理解させる必要がある。領土交渉を再起動させるための外交カードは何か、日本政府は戦略の早急な見直しが求められる」、琉球「領土問題で中ロが共闘するとの懸念も出ている。日本外交は正念場だが、主張すべきは毅然(きぜん)とした態度で主張すべきだ。国際世論に日本の立場を訴え、中国、ロシアとの間に建設的な対話の雰囲気を醸成できるか。東アジア地域の安定のための、日本の真の外交力が問われている」。(審査室)