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2011年 4月26日
復興へ生活再建急げ
東日本大震災1か月をめぐる社説
原発、迅速な情報公開を
東日本大震災から1か月を経て政府は14日、被災地復興に向け「復興構想会議」の初会合を開いた。だが、東京電力福島第一原発事故について経済産業省原子力安全・保安院が12日、国際的な事故評価尺度を旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と同じ最悪の「レベル7」に改定。17日には東電が初めて収束への工程表を発表したが、復旧作業の遅れでなお深刻な事態が続く。各社の社・論説は復興や原発事故の行方を取り上げた。
人間を置き去りにするな
《復興へ》読売「津波対策としては、海岸沿いを避け、高台に住宅を作るほか、避難場所にも活用できる中高層の公共施設を増やすことが重要だ。(略)国と自治体が緊密に協議し、各自治体の実情に合った青写真をまとめて、計画的な町作りを進めることが求められる。被災した東北3県全体を特別区域に指定し、税財政上の特例措置を設けるのも一案だ。土地の用途制限の緩和や許認可手続きの簡素化により、新たな企業誘致や産業・観光振興を図ってはどうか」、河北「高地移住が考え得る最も有効な対策であることは論をまたない。しかし、山地が海岸に迫る三陸では平たんな高地は少ない。被災者数の多さを考えれば、適地探しは難航しよう。被災地は地縁、血縁が濃密な場所だ。集団居住が避けられないにしても『長屋』的な空間を確保して、コミュニティーを維持したい。(略)教育や雇用の場の確保といった生活再建策とセットでなければ、移住に住民の納得は得られない。知識人がいくら衆知を集めても、現場の生活実感と乖離(かいり)していては復興は前へ進まないのだ」、岩手日報「心はそんなに早くは立ち直れない。まちの復興が進んでも、人間が置き去りにされては本当の意味で古里は再興できない。だからこそ生活の再建が急務だ。被災地域は高齢者が多い。落ち着ける住まいを急ぎたい」、中日・東京「被災県の知事たちが地元の声を議論に反映させると期待したい。ただ、いずれカネの工面と使途について権限を握る霞が関との調整が必要になるはずだ。(略)脇に置かれた霞が関が抵抗した場合でも、会議が打ち出す復興策を断行する指導力が菅首相に残っているだろうか。それともかけ声とは裏腹に、復興策自体が小ぶりになってしまわないか」。
《最悪評価》毎日「レベル7の判断材料となる(放射性物質)放出総量の試算はなかなか公開されなかった。精度を上げるのに時間がかかったというのが政府の説明だが、レベル7を認識しつつ、毎日『試算中』と答えるにとどまったとすれば信頼を損なう。計画避難の判断基準となる積算線量の公開にも、もたつきが見られた。積算線量は住民の安全を守るために不可欠なデータで、情報公開に不透明さや遅れがあってはならない」、朝日「放出量はチェルノブイリ事故の1割前後だという。だがそれよりも深刻な一面もある。複数の炉が一斉に機能不全となり、1カ月たっても安定しない。(略)私たちの前には、巨大な敵がまだ居座っている。いま最も力を注ぐべきは、事故をこれ以上、大きくしないことだ」、産経「いきなり7に引き上げられると、誰しも事態の急な悪化を想像してしまう。あるいは、何か深刻な状況を隠しているのではないかと疑心暗鬼にかられかねない。一時的にレベル7の適合要件を満たしていたからといって、それだけで結論を下すのはいかがなものか」。
工程の確実な実行を
《工程表》福島民友「工程表では、原子炉を安定状態に持ち込むには半年以上を要するとしている。もっと早く収束させることはできないのかとの見方がある半面、さまざまなリスク(障害)や不測の事態の可能性も否定できず、計画通りに事が運ぶのかは不透明な側面もある。東電はこれ以上の信用低下を招かないためにも、工程の時間的な前倒しに努めるとともに、作業の進み具合を逐一公表し、社外の専門家の意見も取り入れながら確実に実行していかなければならない」、福島民報「避難住民は最短でも半年間、不自由な毎日を強いられることになる。現在、避難先となっている体育館などで生活するには余りに長く、過酷だ。(略)作業の現状や問題点をその都度しっかり説明することも住民の納得を得る上で最低限欠かせない」、茨城・日本海など「対策は総花的で、不十分である。現状の困難を反映して課題を列挙しただけで、工程表といえるレベルにさえ達していない。避難している住民の不安に応えるものでもない。菅直人首相は『少し前進できた気がする』と語った。これも甘い評価である」、日経「この工程表の実行は大変な困難が伴う。高濃度の汚染水の処理などで対応を誤れば、作業員の生命を脅かし周辺環境の深刻な汚染にもつながる。(略)働く人の安全などに十分配慮し慎重に進めなければならない」。(審査室)