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2011年 5月17日
憲法を復興の支えに
64回目の憲法記念日の社説
非常時対応は喫緊の課題
巨大地震と津波、原発事故という複合災害の中で64回目の憲法記念日を迎えた。4兆円余りの第1次補正予算は成立したが、もたつく政府の対応に厳しい論調が目立つ。復興の過程で日本をどう変えていくべきなのか。43の社・論説が東日本大震災と憲法を論じた。
私権制限は住民の理解を
《生存権を再確認》毎日「憲法では13条『生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利』、25条『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』とする生存権を再確認する機会である。いずれも平時を前提にしているとされるが、緊急時にこそ国が『生命と最低限度の生活』を支えるのが憲法の要請だろう」、静岡・日本海など「原子力発電を基幹に据えるエネルギー政策の背景には、『公』優先という発想が透けて見える。この結果が『フクシマ』だ。何の落ち度もないのに原発周辺住民は居住の自由を制限され、子どもたちは教育の権利を脅かされている。国の政策が『公共の福祉』の下に安易に許容されてこなかったか」、琉球「原発事故では政官が一丸となって原発震災の封じ込めに取り組むべきなのに、国民への情報発信の在り方は『遅れ』『分かりにくさ』『不正確さ』『うそ』『過小評価』など、致命的だった。情報は国の専有物ではない。被災者はもちろん、主権者である国民には『知る権利』(憲法21条に依拠)がある」。
《公助どこまで》神戸「町ごと津波に流された東北の被災地からは、現行の生活再建支援制度ではとても再生できないという声が多い。被災地の実情に合わせた対応を急ぐ必要がある。憲法に照らして『公助』をどこまで広げるか。その姿勢が問われている」、岩手日報「今後の復興計画では居住区域制限や高台への集団移転など、憲法22条(居住の制限)や29条(財産権)が大きな課題になる。(略)復興計画は上から押しつけるのではなく、行政が選択肢を示して住民の選択と判断に委ね、それに基づいて市町村や県が計画を作成。国が財源を含めて支援する態勢が求められよう」、朝日「すでに被災地では、がれきの中に自力でプレハブを建てる例が出ている。『自宅にもどりたい』という被災者の気持ちは当然であり、痛いほどわかる。一方、地域再興や防災強化の観点からは、私有地の土地利用を一定程度制限するのもやむをえない場合がありうるだろう。政府は自治体とともに早急に青写真を描き、私権制限がどこまで必要なのか、どのような手法を採るのかを具体的に示し、被災者の理解を得るよう努めなければならない」。
改正論議再燃のとき
《非常時の対応》産経「現行憲法の非常時規定は、衆院解散中、『国に緊急の必要』があるときは参院の緊急集会を開催できるとしているだけだ。(略)憲法を含め、国家緊急事態に関する不備の是正が喫緊の課題である。(略)災害対策基本法で定められている『災害緊急事態』の布告も見送られた。この布告により、生活必需物資の配給や価格の決定などが行われれば、今回の震災で問題になったガソリンなどの流通の混乱は是正できたろう」、読売「災害対策基本法では、国が強制力を持った措置は取りにくく、今回のように広域で甚大な震災には、十分対応できないとの指摘が出ている。(略)近い将来の憲法改正が容易ではないことを考えれば、『緊急事態基本法』を制定してはどうか。緊急事態時に、国が万全の措置を講じる責務を持ち、経済秩序の維持や公共の福祉確保のために、国民の権利を一時的に制約できるようにするものだ」、北海道「自民党内には今回の震災を受け、緊急時に国民の権利を制限する非常事態条項を盛り込もうとする動きもあるが、非常時に名を借りて人権を制限する論議は本末転倒だ。憲法の基本的人権は現在だけでなく将来の国民にも保障される『永久の権利』(第97条)である」。
《休眠中だが…》北國「憲法改正手続きを定めた国民投票法は昨年5月に施行され、国会が改正原案を発議する仕組みが整った。だが、衆参の憲法審査会はいまだに休眠状態で、参院では審査会の規程さえない。憲法議論を棚上げしてきた国会の怠慢は、震災に十分に対応できない政治の今の姿にもつながって見える」、日経「ものごとがなかなか決まらない背景には、衆参ねじれで政権党が参院で多数を占めていないことがある。『強すぎる参議院』の権限を弱めるには憲法改正が必要で、憲法論議を再燃させるときだろう」、中日・東京「地震、津波にもろい国土、綱渡りのエネルギー需給など、基礎の危うい日本社会をどう変え、そのための負担をどうするのか。(略)憲法の大原則である『国民主権主義』は、国民が自らの社会をつくりかえていく営みに自覚的に参加することを求めています」。(審査室)