2011年 5月31日
楽観的すぎる見通し

原発事故の新工程表をめぐる社説
収束に向け精度高めよ

東京電力は17日、福島第一原子力発電所事故の収束に向けた工程表の改定版を発表した。東電は事故直後の解析データも公表、1号機が炉心溶融(メルトダウン)していたことが確認され、2・3号機も同様であることがわかった。新工程表では冷却方法を冠水から循環方式に変更するなどの見直しを行ったが、「6~9か月」という収束日程は変えなかった。これを受け、政府も原発被災者を「国策による被害者」と位置づけて支援するための取組方針(工程表)を示した。60本を超える社・論説から。

厳しい現実、揺らぐ道筋

《炉心溶融》朝日「福島第一原発の事故炉を封じ込める道筋が大きく揺らいだ。1号機で、炉の燃料棒が溶けて下に落ちるメルトダウンが起こっていたらしいと、東京電力が認めた。(略)目算は大きく狂った。原発の深刻な事態が収束するまで『6~9カ月』という見通しにも、黄信号がともった」、中日・東京「解析に時間が必要としても、どうして大震災から二カ月もかかったのか。発表があまりに遅い。(略)メルトダウンの可能性は十分、予測できたはずだ。それを『一部損傷』と、事故の程度を過小評価した姿勢は、猛省に値する」、産経「炉心損傷は予想されたことでもある。落ち着いて冷静に受け止めることが必要だ。(略)形としては厳しい現実の再確認だが、修理に欠かせない貴重な情報の把握として受け止めたい。(略)事態は悪化しておらず、落胆する必要もない。困難に遭遇しつつ、そのつど問題を克服して粘り強く前進するのが、長期戦に勝ち抜くための要諦である」。

《日程変えず》北海道「当初の想定より、状況が大幅に悪化したのは確実だ。(略)ところが、東電は6~9カ月で原子炉を安定的に停止させる目標を変更する必要はないという。あまりに楽観的な見通しだ。これでは工程表は、東電が考えつく方策を詰め込んだ努力目標にすぎなくなる」、日経「東電が示した工程表は、楽観的と言わざるを得ない。地震や津波に襲われた直後の原子炉の状況は、今まで東電や政府が考えていた以上に深刻なことが分かってきた。(略)原子炉から漏れた水を再び戻して冷却する策は説得力に欠ける。安定停止まで時間がかかる事態も想定し、複数の筋書きを示せなかったのか」、毎日「東電の当初の工程表は、甘い現状認識に基づいていたもので、本来、徹底した見直しがいるはずだ。(略)原子炉の状況をもっと正確に把握した上で、具体的な対策を立て、それを国民に説明する必要がある。もし、住民を早くふるさとに帰すことを強調するあまり、楽観的な見通しに立っているとしたら、逆効果だ」。

《改定の意味》上毛・日本海・大分など「来年1月までに収束する予定は変更しなかった。それが可能か、確実でないのが問題だが、作業の手順が示されたのは一歩前進である。1カ月前の4月17日に作成された東京電力の工程表は、原子炉の状況がよくつかめないまま、急ごしらえの感が否めなかった。今回の改定は現在分かる実態に即しており、一定の意味はある」、西日本「予定通りに行かないこともある。だから、工程表は小まめに見直し、進行状況を分かりやすく説明することが大事だ。何ができ、何ができないか。どのくらいかかるか。経験を積み、工程表を改定するごとに精度が高まっていくはずだ。思った以上に難しいと分かれば、最終的な目標期限を延ばすことも考える」、高知「工程表見直しを経て、東電の責任はますます重くなった。建屋や原子炉内の様子が明らかになるにつれ、今後も難題が立ちはだかってこよう。その都度、対策を講じ工程表の精度を高めていく必要がある。(略)収束への道のりはなお遠いが、歩みを遅らせるわけにはいかない」。

国の責任、明確化は当然

《国策の被害者》京都「(政府)工程表には、今回の被災者は原子力政策という国策の被害者だと明記された。その上で菅直人首相が『政府として最後の最後まできちっと責任を持って対応する』と表明した。国の責任を明確に認め対応を約束した点は、当然ではあるが、評価できよう」、読売「東日本大震災の発生以降、原発事故は復旧・復興の重い足かせとなってきた。生活基盤を失った原発周辺の住民は、早期の事故収束を切望している。菅首相は『国策による被害に、最後の最後まで責任を持って対応したい』と語った。着実な実行に全力をあげてもらいたい」、福島民友「今回の事故は国が責任を回避する余地は全くなく、責任を持つのは当然のことだ。(略)菅政権がいつまで続くかは別として、将来、『それは菅政権時代の言葉』などという責任逃れがあっては決してならない。すべての事態が収束するまで、将来のどんな政権でも受け継がなければいけない、国としての重い言葉だ」。(審査室)

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