2011年 6月28日
国民の明確な意思表示

欧州の「脱原発」をめぐる社説
再生エネルギーの活用検討を

福島第一原発事故という日本発の衝撃が、「脱原発」のうねりを欧州に広げている。原発の運転延長を決めたばかりだったドイツのメルケル政権が6日、2022年までに既存の17基の原発を全廃する法案を閣議決定し、百八十度の政策転換をした。さらに全ての原発の稼働を停止しているイタリアで12、13日に実施された国民投票では、改めて「原発再開反対」が確認された。エネルギー政策の抜本的な見直しという課題を投げかける脱原発への動きを、40本を超す社・論説が取り上げた。

国際社会へ重い問いかけ

《ドイツの決断》中日・東京「東日本大震災後も原発維持が大勢を占める国際社会への重い問いかけと受け止めたい。原発に依拠しない国としてはすでにオーストリアやデンマークなどの例があるが、欧州経済の牽引(けんいん)車たるドイツの決断が国際社会に与える影響は遙(はる)かに大きい」、京都「リスクや負担を覚悟してでも環境や安全を守ろう、なすべきことをしよう、という明確な意思を政党が示し、それが国民の支持を広げているのがドイツの特徴だ。こうした姿勢は、冷戦終結後のドイツ再統一に必要な巨額な財源を、連帯付加税で賄った姿勢にも通じよう。ドイツの選択に、日本が学ぶことは多いのではないか」、朝日「メルケル首相は『未来への巨大なチャンスだ』と国民を鼓舞している。今後、脱原発への離陸に成功すれば、ドイツは21世紀の新しい文明と生活のモデルを示すことができよう。事情が大きく異なるとはいえ、ドイツの果敢な挑戦から日本は目を離してはなるまい」。

《国民がノー》西日本「イタリアで原発再開の是非を問う国民投票が実施され、反原発票が9割を超す圧倒的多数を占めた。国民は明確に『脱原発』の意思表示をしたといえる。(略)複雑で難しい問題でも、政治家や専門家だけに任せてはおけない―。そうした国民の危機感は、日本もイタリアも同じではなかろうか」、新潟「福島第1原発の事故後、原発をめぐる国民投票が実施されたのは初めてである。主要国(G8)の中では、ドイツに次いで『自らの生き方』を国際社会に示したことになる。反原発の世論が高まりを見せている隣の原発大国・フランスなどへの影響は必至である」、読売「ベルルスコーニ首相は『結果を受け入れる』と、原発との決別を約束した。ドイツに比べてイタリアは、風力や太陽光など再生可能エネルギーの開発・普及が遅れている。代替エネルギー開発をどう進めていくのか、イタリア政府は早急に明らかにする責任があろう」。

《冷静な見極めも》日経「スイス、ドイツに続き、イタリアも脱原発にカジを切ることになる。だが、欧州内で同じ機運が高まっているわけではない。フランスと英国のほかチェコやポーランドなど東欧諸国は原発推進を打ち出している。(略)原発のあり方や再生エネルギーの活用を含む全体像について、コスト、技術進歩、環境への影響など総合的な観点から考える必要がある」、南日本「気がかりなのは、ドイツもイタリアも『脱原発』を唱えながら、フランスなど隣接の原発国から電気の輸入を当面あてにしていることだ。他国の原発なら許されるという考えは矛盾していると非難されてもやむを得まい。安全を追い求めて脱原発を目指すのなら、太陽光や風力、水力といった再生可能エネルギーへの転換を急がなければならない」、産経「脱原発の電力不足は火力発電に委ねられ、原油や天然ガスの価格高騰を招く。エネルギー不足とコスト高は日本経済、ひいては世界経済にも悪影響を与えかねないのである」。

日本でも自由な議論を

《日本は》毎日「米国や中国、インドは原発推進の姿勢を変えていない。中東ではサウジアラビアが30年までに16基もの原発を建設するとの情報もある。世界の分かれ道に、どう対応すべきか。スリーマイル島(79年)やチェルノブイリに続く原発事故の震源地となった日本としては、将来の原発政策を腰を据えて考えたい」、茨城・静岡など「当面の供給力不足をカバーするために原発の電力が必要だからといって、いつまでも原発依存を続けることが不可欠だということにはならないはずだ。欧州の大胆な政策転換を機に日本でも、これらの多くの論点についての自由闊達(かったつ)な議論を巻き起こしたい。そのためには議論の場をどうつくるかも、重要な課題である」、信毎「日本にはイタリアの国民投票のように原発の是非を国民に直接問う制度がない。福島第1原発事故が直接、間接的に多くの国民に深刻な影響を与えていることを考えれば、原発のような重要政策については政策決定の過程をオープンにし、国民の声を反映させる仕組み作りが必要だ」。(審査室)

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