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2011年 7月20日
常軌逸した暴言に怒り
松本復興相辞職をめぐる社説
「死に体」菅政権に幕を
菅直人首相は東日本大震災の復興対策担当相に松本龍防災担当相を起用したが、松本氏は被災地を訪問した際暴言を吐き、7月5日辞職した。在任期間はわずか9日だった。後任は岩手県選出参院議員の平野達男内閣府副大臣。重要人事の失態に、菅首相の任命責任を問う声が与野党から噴出。60本を超える社・論説が政権の限界を論じた。
被災者の感情を逆なで
《威圧的》秋田「松本氏の問題発言は岩手県の達増拓也知事、宮城県の村井嘉浩知事と会談した際に飛び出した。その一部はこうだ。『あれが欲しい、これが欲しいはだめだぞ。知恵を出したところは助けるが、出さないやつは助けない』『漁港を集約するのは、県でコンセンサス取れよ。そうしないとわれわれは何もしない。知らんぞ』震災対応に追われている両県知事に対し、上から目線の命令口調で畳み掛けたこの態度は何なのか。(略)本来ならば政治の混乱で復興対策が遅れたことを担当相として被災地に陳謝し、温かく激励するのが筋なはずである」、読売「村井嘉浩宮城県知事に、『お客さんが来るときは、自分が(まず部屋に)入ってからお客さんを呼べ』などと威圧的な態度をとったことも到底理解できない。もとより、政府と自治体は主従ではなく対等な関係である」。
《情けない》福島民報「東日本大震災という未曽有の災害に苦しんでいる被災地に対して『助ける』『助けない』の発想はあまりにも常軌を逸した発言ではないか。本県をはじめ岩手、宮城三県の自治体は行政機関そのものや職員も被災している。国から知恵を借りてでも復興の足掛かりを見いだしたい状態だ。(略)上から下への高圧的な態度は時代錯誤と言わざるを得ない」、河北「本来なら論評にも値しない。怒りを通り越して、あきらめや無力感さえ漂う。粗野な言動と品性を欠いた振る舞いで被災者の感情を逆なでした。将軍気取りで知事を地方大名扱いしたとあっては、民主党政権が掲げる地方分権改革の底の浅さも透けて見えよう」、沖縄「松本氏の放言は、政治家の劣化という言葉では表現できないほどの体たらくである。権威をかさに着た恫喝(どうかつ)にしか聞こえない。被災地とともに手を携えていくべきなのに、勘違いも甚だしい」、日経「菅政権は3月11日の震災発生から復興相の任命まで3カ月余りを要した。1995年の阪神大震災で当時の村山政権は震災の3日後に小里貞利地震対策担当相を任命し、国と自治体や省庁間の調整の陣頭指揮に当たらせた。今回は政府内に関係部署が乱立したため、被災地では早い段階から『窓口を一本化してほしい』との要望があがっていた。ようやく任命された復興相が現地との信頼関係を損なうようでは論外である」。
《無理な人事》中日・東京「退陣を表明して求心力を失った首相の下では、松本氏以外に引き受け手がなかったのが真相だろう。松本氏自身も復興相への就任要請を一度は断ったことを明らかにしている。気の進まない就任だったのだろうと推測はするが、だったら初めから引き受けるべきではなかった」、北國「もしかすると、松本氏の不満の矛先は、菅首相に向けられていたのではないだろうか。政権に居座る菅首相の下で、復興に当たることに嫌気が差し、募る不満が失言や暴言というかたちで噴き出した印象が否めないのである」。
地元の声、政策に反映を
《退陣論》産経「問題の本質は松本氏の首をすげかえれば解決するものではない。首相が退陣に言及した『死に体』内閣では、復旧・復興は望めないということだ。首相の責任こそ問われなければならない。一刻も早く退陣しなければ、被災者を惨状から救い出すことはできない」、朝日「きっと民主党内では、首相に早期退陣を求める声が大きくなるだろう。自民党など野党も、ふらつく首相への交代要求を強めるに違いない。だが、そんな暇と余力があるなら、いますぐに必要な政策を法制化し、復興の具体化を急ぐべきだ。懸案を粛々と片づけることで、菅政権に幕を引く。それしか国会に道はない」。
《新大臣》毎日「(平野氏は)これまで被災地支援に取り組み実務に詳しいとはいえ、中央官庁ににらみを利かせるような重みはない。次期政権までのつなぎ人事と受け止められよう」、岩手日報「震災発生以来、被災地支援の指揮を執ってきた。継続性からみても妥当な人事だ。陣頭に立って復旧・復興の遅れを取り戻してほしい。(略)本県出身で被災地の苦しみを熟知する政治家に期待する」、北海道「政府と地元自治体との意思疎通を密にするため、復興相と被災地の知事、市町村長との定期的な協議の場を設けてはどうか。政府側には被災地に足を運び、地元の意向を政策に反映させるよう求めたい」。(審査室)