2011年 7月26日
独断公表、混乱広がる

首相の「脱原発」表明をめぐる社説
現実味ある政策示せ

菅直人首相は13日の記者会見で「脱原発依存」の方針を打ち出し、徐々に原発を減らして「将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」と述べた。ところが、2日後の閣僚懇談会では一転、個人的な考えだと釈明。停止中の原発の再稼働をめぐる閣内不一致やストレステスト(耐性評価)実施と同様、首相の独り相撲がまたしても国内を混乱させた。各紙は、原発依存を減らす方向性は評価しつつ、具体性の欠如と説明不足を一様に指摘。首相の迷走に対しては手厳しい。約50の社・論説から。

依存減らす方針は妥当

《方向はいい》京都「原発を減らす―。そう明言した首相は初めてではないか。(略)戦後長く続いてきたエネルギー政策を180度方向転換させるに等しい大胆な宣言だ。福島第1原発事故が原発の巨大なリスクを見せつけた今、新しいエネルギー政策の方向を評価したい」、河北「事故収束の見通しは、依然立たない。原発にばかり頼っていられないというのは、多くの国民の率直な思いだろう。(略)原発は安全性確保だけでなく、使用済み燃料の最終処分など、さまざまな困難な問題を抱えている。過渡期のエネルギーとの捉え方は妥当だ」、朝日「確かに最終目標として原発全廃に踏み切れるのか、何年かけて実現するのかといった点は、そう簡単に国民的な合意は得られまい。だが、自然エネルギーを飛躍的に普及させ、原発への依存を減らしていく方針への異論は少ないはずだ。誰が首相であっても進めなければならない、焦眉(しょうび)の政治課題なのだ」。

《個人の考え》読売「菅首相は、記者会見で『脱原発依存』を声高に主張しておきながら、批判を浴びるや、個人的な考えだと修正した。首相の迷走が与野党や経済界、原発立地自治体などに混乱を広げている。(略)そもそも、退陣を前にした菅首相が、日本の行方を左右するエネルギー政策を、ほぼ独断で明らかにしたこと自体、問題である」、北國「枝野幸男官房長官は、会見で『首相は「脱原発依存」とは言っていない。遠い将来の希望だ』と述べ、仙谷由人官房副長官も『あれは、首相の願望だ』と切り捨てた。こうした発言から見ても、首相の考えは政府の統一方針ではあるまい。行政のトップが『個人の思い』で政治を切り盛りされたら、国民はたまったものではない」、毎日「もちろん、首相のリーダーシップで進めていくことは必要だ。しかし、民主党の執行部でさえ菅首相と距離を置き始め、絶えず退陣時期が焦点となっている現状を考えれば、個人的な意見の言いっぱなしで終わる心配がある」。 

《具体性欠く》産経「再生エネルギーの発電比率は水力を含めても9%程度で、一気に高めることはできない。問題は10年、20年単位での基幹エネルギーの転換をどう円滑に進めるかだ。首相はこの点を全く説明しておらず、無責任以外の何物でもない」、日経「気象状況に左右される自然エネルギーは不安定で、現状では発電コストも高い。火力発電を増やせば天然ガスや石油の輸入経費がかさみ、国際的に割高とされる電気代の一層の値上げを招きかねない。国際競争力が低下し、産業の空洞化に拍車をかける恐れがある」、山陰「首相は、現在停止中の原発が再稼働しなくても『今年の夏と冬の必要な電力供給は可能だ』と語ったが、その先はどうか。再稼働ができなかった場合、さらなる電力不足が全国に広がる懸念についても丁寧に説明するべきだった」、福島民友「具体的な道筋やスケジュールに言及するわけでなく、閣内や与党内で事前に煮詰めた形跡もない。このテーマは、『ポスト菅』政権がじっくり協議した上で国民に問い掛けるべきであることを強調しておきたい」。

超党派で議論深めよ

《議論始めよ》中日・東京「脱・原発依存のように日本社会の在り方を大きく左右するエネルギー政策転換の是非は、国民の意思を問うのが望ましいが、レームダック(死に体)化した首相がそれをやるのは無理がある」、信毎「退陣を表明しておきながら続投している首相に大きな問題があることは明らかだが、閣僚や党執行部の対応にも疑問がある。退陣問題とは切り離し、政権党として取り組むべき課題を深める努力が必要だ。首相と閣僚、党執行部に、政権党としての強い自覚と責任を求める」、佐賀「これまで原子力エネルギーを推進してきた自民党でさえ、『脱原発』には踏み込まないものの、古い炉を廃炉にしていく『縮原発』の方向を検討している。(略)超党派で、未来の子供たちに負担を残さない発電、送電の在り方を議論してもらいたい」、愛媛「各党が過去の政策を総点検し、原発事故の反省にたった現実味のあるエネルギー政策を国民に示すこと。真の国民的議論の第一歩、政治の復権の第一歩は、そこからだ」。(審査室)

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