2011年 8月2日
被災地に希望届ける

「なでしこ」W杯初優勝をめぐる社説
ひたむきなプレーに感動

サッカーの女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会の決勝が7月17日、フランクフルトで行われ、日本代表「なでしこジャパン」が2―2の激闘からのPK戦を3―1で制し、3度目の優勝を狙った米国を破って、初優勝した。欧米勢以外で初のW杯制覇で、国際サッカー連盟(FIFA)主催大会での日本の優勝は男女通じて史上初の快挙。小さな体でピッチを走り回り勝利を勝ち取った選手たち。東日本大震災で沈みがちな人々の心を鼓舞するような戦いぶりを、46本の社・論説がたたえた。

チームワークの勝利

《あきらめない》茨城・大分など「最後まであきらめない気持ち、粘り強い守備、そしてリズミカルなパス攻撃が一気に花開いた。選手はどの試合も、ボールを持つ相手を常に追いかけ、重圧を掛け続けた。体力を消耗するし、実に骨の折れる仕事だが、その苦労をいとわなかった」、神奈川「戦績や体格の不利に臆することなく、代表の持ち味とされる巧みなパス回しとチームワークでつかんだ勝利だ。強い信念と固い結束力に胸を揺さぶられた人も多かったろう」、産経「強く大きな米国に終始追い込まれながら、耐えに耐えた末の栄冠だった。MVPと得点王に輝いた沢穂希選手が『あきらめずに戦った結果』と語った言葉を心に刻みたい」。

《勇気と希望》朝日「悲壮感や根性論とは無縁の、スポーツの原点である『プレーする喜び』が彼女たちの全身からあふれていた。そんな姿に日本中が熱狂したのは、大震災以降の重苦しさのなかで、人々がなでしこの快進撃に希望や期待を重ね合わせたからだろう。一瞬でも苦しさを忘れ、勇気を与えられた人は多かったに違いない」、信毎「小柄な選手たちが、体格で勝る欧米の選手をスピードでほんろうした。なにより光ったのは、心の強さだ。先に失点しても、あきらめない。失敗を恐れず、仲間と自分を信じて前に出る。彼女たちのひたむきなプレーに、勇気づけられた人は多いだろう」、毎日「感動したのは試合内容だけではなかった。決勝戦を含め、出場したすべての試合後、なでしこたちは『世界中の友人たちへ、支援に感謝します』と英文で書かれた横断幕を手に場内を回り、スタンドの観衆の声援に応えた。今回の東日本大震災に際し、世界中から送られた支援に、なでしこたちが日本を代表して感謝の意を表してくれているようで、胸が熱くなった」。 

《被災地からは》陸奥「大舞台で自らの夢を実現した選手たち。もう一つ、『東日本大震災の被災者を勇気づけたい』という夢もかなえてみせた。勝利に沸き返る列島にあって、被災者からは『復興の支えになる』と喜びの声が上がっている」、福島民友「日本代表の初優勝が決まった後、県内の避難住民からは『勝つたびに勇気が沸いてきていた。ついに世界の頂点に立ち感動した』との声が上がった。選手と被災者双方の気持ちはつながっていた」、岩手日報「震災が起き、なでしこイレブンもさまざまな思いを抱えて臨んだ大会だったろう。その中で最高の結果を示し、日本に勇気と元気をもたらしてくれた選手たちに心からありがとうと言いたい」、河北「大震災の被災者を勇気づけたい―。選手たちにはそんな思いもあった。ドイツ戦の直前、全員で大震災のビデオを見て涙した。(略)選手たちのそんな思い、粘り強い戦いぶりは、被災地にしっかり伝わったようだ。『復興の支えになる』『これで仮設住宅にも明るい空気が広がる』などの声が聞かれた」。

女子サッカー認知に弾み

《裾野の拡大を》京都「女子サッカーの裾野の拡大も課題だ。日本の競技人口は5万人に満たない。一方、米国やドイツは100万人を超えるという。とりわけ小中学校の年代での普及を進めたい」、神戸「不況で企業が相次いで女子サッカーから撤退した影響は今も残る。国内の女子リーグ(なでしこリーグ)は、待遇や練習環境がまちまちで恵まれた選手は一部にすぎない。地域に根ざすチームが増えれば後に続く選手たちの励みになり、伸びしろはまだまだ広がる」、山陽「今回の優勝で女子サッカーの認知度や人気に大きく弾みがつこう。より良い条件で選手が競技に臨めるよう環境改善につながってほしい。それが競技の裾野を広げ、一層の戦力強化にも結びつく」、中日・東京「なでしこたちは『女子サッカーの待遇を改善したい』という共通の思いがあった。女性の潜在力を社会でどう発揮してもらうか。世界の頂点からのメッセージをしっかり受け止めたい」、読売「沢穂希選手らの活躍を見て、『いつかは自分も』と誓った『未来のなでしこ』もいるだろう。W杯制覇は、日本女子サッカーの一層のすそ野拡大につながるに違いない」。(審査室)

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