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2011年 8月23日
世界経済悪化を懸念
米国債格下げをめぐる社説
円高阻止へ対策急務
米国の財政不安で基軸通貨ドルが揺らいでいる。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、米政府の財政赤字削減策が不十分として米長期国債の格付けを最上位から史上初めて1段階引き下げ、世界同時株安と急激なドル安を招いた。主要7か国(G7)の財務相・中央銀行総裁が金融安定化へ緊急共同声明を発表、米連邦準備制度理事会(FRB)もゼロ金利継続を表明したが、市場の動揺は収まらない。政府の為替介入でも円高は止まらず最高値更新、日本経済にも先行き不安が広がる。70本を超す社・論説が取り上げた。
政治への不信強まる
《信用不安》毎日「深刻なのは、政治家の指導力、問題解決力に市場参加者が不信を強め、それが不安を増長させている点だ。米国では、債務不履行を回避したとはいえ、文字通り期限ぎりぎりの危うい決着だった。しかも、財政改善策は全部を詰め切れずかなりの部分を先送りした。不測の事態が起きた時、迅速に対処する意思や能力があるのか、との疑念を植え付ける結果になった」、北海道「米財政の悪化が世界経済の足かせになるようでは困る。(赤字)削減の道筋を描き直し着実に実行すべきだ。来年の大統領選を控え与野党間の対立が再燃する可能性もある。これが米国債の格下げの一因となった。政治的駆け引きで世界経済を混乱させるようでは市場の信認は得られない」、南日本「ギリシャの財政危機に端を発した債務問題がスペインやイタリアにも飛び火して、国債信用不安を拡大させている欧州連合(EU)も同様だ。米国ともども財政赤字の増大を放置し、適切な対策を怠ってきた責任を問われているといえるだろう」。
《手詰まり》新潟「G7共同声明は『今後数週間、緊密に連絡を取り、市場安定と流動性確保のため行動する』などとした。協調行動の可能性を強く打ち出してはいるが、具体性を欠く。世界経済の主役である米国の財政不安が世界経済成長の重大な阻害要因として浮上した。これに対して準備されているのは、あくまで応急措置だけという心細さだ」、日経「苦しいのは欧米の財政危機だけでなく、成長不安も広がってきたことだ。財政危機には厳しい歳出減らしなどの緊縮策で対応するのが筋だが、これは経済を下押しする要因にもなる。リーマン・ショック後は各国が大規模な財政刺激策を取ったが、その手は使いにくくなった。景気下支えには手詰まり感が出ている」、朝日「進行中の危機は根が深い。市場の圧迫に耐え、景気悪化を防ぎ、しかも財政再建を進める。そんな3正面作戦に向けて主要国が腰を据えて協力できるかどうか。中国など新興国にも連携の輪を広げられるか。そして米国債の格下げで進むであろう国際通貨秩序の多極化にどう対応するか。山積する課題に、広い視野で当たってほしい」。
《暗雲》山梨「大震災で生産拠点が崩壊し、サプライチェーン(部品の調達・供給網)も寸断するなど深刻な痛手を負った製造業は、震災後5カ月が経過し、回復軌道に乗り始めた。山梨県内の製造業も、『回復の兆しが表れている』(日銀甲府支店の6月短期経済観測調査)。にもかかわらず、今回の急激な円高は企業の想定相場を上回り、回復基調に水を差しかねない」、岩手日報「過度の円高は、被災地にも重大な影響がある。このまま進行すれば、景気をけん引してきた輸出産業は極めて厳しい局面を迎える。海外移転、そして産業の空洞化が現実味を帯びてくる」、北國「急激な円高は、輸出企業を直撃し、輸出関連の製造業が多い北陸にも暗い影を落としている。海外受注の回復が軌道に乗った北陸の製造業は、輸出を中心に業績回復が進んできただけに地域経済への影響は計り知れない」。
協調介入働き掛けを
《対策》京都「単独介入では限界がある。米欧に対し、さらに強力な協調介入の実施を働きかけるべきだ。同時に産業空洞化などを回避するためにも、本腰を入れて円高対策に取り組む必要がある。震災復興に向けた2011年度第3次補正予算編成を早く軌道に乗せることや、新たな景気浮揚策も必要だ。政争にかまけて手をこまねく余裕などない」、産経「協調介入なら効果はなお大きい。円高阻止への断固たる姿勢を示すためにも、各国を説得できる交渉力を発揮してもらいたい」、読売「震災による景気悪化が一段落したとして、政府は景気判断を『持ち直し』に上方修正した。(略)見通しが甘すぎる。景気優先の政策運営が欠かせない。震災復興事業は内需拡大につながる。安定財源を確保し、大胆に事業を推進していくべきだ」、中日・東京「円高がさらに進むようなら、日銀は国債の買い切り増額など一段と実効性ある緩和策が必要になる。なにもしなければ日本の独り負けだ」。(審査室)