2011年 10月25日
在京・地方紙論調二分

TPP参加問題をめぐる社説
「早期決断を」「拙速すぎる」

環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題で野田佳彦首相が議論加速を指示、政府・民主党内の調整が本格化している。首相は11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに結論を得る意向だが、賛否は鋭く対立している。50本を超える社・論説は、在京紙などが米韓自由貿易協定(FTA)進展なども踏まえて参加決断を促す一方、地方紙の多くが反対・慎重論を唱え論調は分かれた。

首相は指導力発揮せよ

《参加表明を》読売「政府はTPPへの参加を早期に決断すべきだ。自由で開かれた通商の仕組みを作っていく一員になることが重要なのである。(略)参加表明が遅れた場合、交渉参加も不透明になる。交渉決着後では、不利なルールを受け入れるしかない」、日経「野田佳彦首相は今こそ指導力を発揮して党内の意見を束ね、交渉参加を表明すべきだ。ここが首相の正念場である。通商国家の日本にとり、自由貿易は経済成長を支える基盤である」、毎日「APECではTPP参加を明確に表明してもらいたい。(略)うちに閉じこもっていては、日本経済の未来はない。経済開国と農業の再生にむけて、首相の力強い決断を求めたい」、産経「参加の是非をめぐる政府・党の議論は1年余も続き、論点は出尽くしている。(略)首相は議論の指示ではなく、参加を自ら決断し、意見集約に動くべきだ」。

《まず交渉へ》高知「日本の針路や社会構造にも大きな影響を与える問題だけに、これ以上の先送りは許されない。(略)まずは交渉に参加して自由化のルールづくりに日本の要望を反映させる、そんな選択肢も考えるべきだ」、中日・東京「(農業と経済の)両立策を大胆に描くべきだ。農業再生の実現性が見えてくれば、攻めの交渉がしやすくなる。(略)TPP交渉入りの論議は、なきに等しい日本のFTA戦略を再構築する好機でもある」、朝日「日本がもたつく間も、世界は動いている。自動車や電機といった日本の主力産業でライバルとなった韓国が典型だ。(略)TPPへの参加は、経済連携戦略での遅れを取り戻す、またとない機会だ。野田首相に問われるのも、大きな戦略とリーダーシップである」、西日本「韓国がFTAを発効させるから日本もTPPを―と短絡的に考える必要はない。日本には日本の事情がある。しかし、国家目標の明確化と高い戦略性、国内調整のスピード感など、韓国に学ぶ点は多い。(略)ライバルの動きから目を離さず、日本も貿易自由化の論議を加速させたい」。

《議論尽くせ》琉球「国の社会・経済構造を激変させかねない問題なのに、国民への十分な説明もなく、議論の時間もなく、あまりにも拙速だ。(略)いま必要なのは国益を損なう拙速な結論ではなく、国民的議論をしっかりと積み上げることだ」、茨城・日本海など「1カ月ほどで拙速に結論を出すことが、本当に国益につながるのか。(略)APEC首脳会議までに残された時間はわずか。国民に見える形での十分な議論もないまま、不透明な決着を図る事態だけは避けてもらいたい」、中国「必要以上に慌てることはない。個別の国との協定を積み重ねるなど、TPP以外の選択肢は本当にないのか。国家の岐路である以上、とことん議論を尽くしてからでも遅くない」。

国民の合意が不可欠

《復興に打撃》岩手日報「危惧されるのは、TPP参加のメリットとデメリットの情報が十分に開示されないうちにタイムリミットのため、論議が打ち切られ『見切り発車』することだ。(略)大震災で農地損壊などのダメージを受けた本県農業にTPP参加が追い打ちをかけるようであってはならない」、信毎「今回の大震災では、東北地方を中心に地域社会が存続の危機に直面している。(略)この状況でTPP交渉に参加するのは、オールジャパンチームの多くが負傷しているのに、国際試合に出場するのに等しいと言わざるを得ない」、北海道「農産物の輸入自由化など被災地の農漁業者に新たな負担を求める論議には疑問が残る。交渉参加の前提となる国民合意を得る努力も欠いたままだ。政府、与党の検討を参加に向けた地ならしとしてはならない」。

《情報足りぬ》北國「TPPへの参加が日本にとって得なのか損なのか、政府内でも見方が分かれている。情報不足で冷静な比較ができない状況では、判断のしようがない」、京都「仮に参加を決断するにしても、その前に国民的な合意形成が不可欠だ。これまで国民に、国内に与える影響など具体的な判断材料を十分に提供してきたとは言えない。政府は情報提供に努めるべきだ」、熊本「TPPをめぐる正しい情報が国民に示されているとは到底言えない。断片的すぎる。(略)国益をどう守るか。情報を可能な限り収集し、速やかに国民に提示する。政府がまずやるべきことだ」。(審査室)

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