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2012年 5月22日
国のかたちをどう描く
65回目の憲法記念日の社説
「生存権の保障」再認識を
日本国憲法が施行されてから3日で65回目の記念日を迎えた。現憲法が完全な実効性を得たといえる、サンフランシスコ講和条約発効で日本が主権を回復した1952年からは、ちょうど60年という節目だ。東日本大震災からの復興では、国の危機管理能力をはじめとし、立憲政治の真価が試されている。国のありようを論じた44本の社・論説から。
真っ正面から論戦を
《改憲論議》日経「2011年3月の東日本大震災を経て、戦後日本が新たな段階に入った現在。国家の将来像をどう描くかも含め、憲法と真っ正面から向き合い、改憲論議を前に進めるときだ。(略)大震災を経験しても『動かない政治』『決められない政治』がつづく。憲法改正は、この国の将来をどうしていくかの議論である」、産経「憲法施行65年の今日、はっきりしたことがある。それは自国の安全保障を他人任せにしている憲法体系の矛盾であり、欠陥だ。(略)本紙とFNNの世論調査で、『憲法改正が必要』は58%に達した。国民も国家の不備を是正すべきだとしている」、南日本「憲法は不磨の大典ではない。時代の変化を踏まえ、見直すのは当然である。しかし、改憲すれば閉塞(へいそく)状況を一挙に打開できると思い込むのは、現実の厳しさから目をそらす結果を招きはしないか。今の憲法が時代に合わないというのであれば、どこをどう書き換えたら今よりましになるのか。目指す国のかたちと、その根拠を明示しなければならない」、京都「衆議院の1票の格差が2倍以上あり、最高裁から『違憲状態』という判決が下っても、1年以上も国会は改善していない。そもそも今の国会に改憲議論の資格があるのか首をかしげざるを得ない」。
《緊急事態法制》読売「国民の生命と財産を守るためには、居住及び移転の自由、財産権など基本的人権を必要最小限の範囲で一時的に制限することにもなろう。それだけに、緊急事態条項への反対論はある。しかし、何の規定もないまま、政府が緊急事態を理由に超法規的措置をとることの方がよほど危険だ。(略)憲法改正論議と同時に、政府は『緊急事態基本法』といった新たな立法も考慮すべきである」、北海道「震災で政府の危機管理のお粗末さが露呈したことは否定できない。だがそれを憲法の欠陥であるかのように主張するのは筋違いだ。現在でも災害対策基本法や武力攻撃事態対処法などに、さまざまな緊急事態に対処する仕組みがある。現行法に不備があるなら、憲法の枠内で見直すべきだろう」、河北「東日本大震災は、現行憲法の『非常事態への弱さ』を、あらためて浮き彫りにした。これまで、憲法の非常事態法制が論じられる際には、自然災害よりも他国との緊張状態を前提とした『有事法制』がメーンテーマとされてきた。(略)非常事態法制の議論では『有事』と『災害』は二つの別のカテゴリーとして論じられるべきだろう」。
立憲の趣旨に添う施策
《生存権》岩手日報「長引く避難生活で体調を崩して死亡したり、自ら命を絶つ『震災関連死』は3月末までに1都9県で1618人。阪神大震災の921人を大幅に上回り、本県も179人に達している。被災者は、憲法で定められた生存権が脅かされる状況に置かれているといえる」、信毎「憲法25条は、基本的人権として生存権を保障している。憲法記念日に当たり、あらためて目を向けたい条文だ。(略)憲法がつくられた時、生存権の規定は元の案になかった。国会での審議を通じて盛り込まれたものだ。当時の熱意をしぼませてはならない」、福島民報「東日本大震災と東京電力福島第一原発事故以降、本県はじめ被災地住民の人権を脅かす事態が目立つ。国や自治体は侵害を放置せず、立憲の趣旨に添った施策を講じるべきだ」、中日・東京「人間らしく生きる。その当然のことが、危機に瀕(ひん)しているというのに、政治の足取りが重すぎる。生存権は、暮らしの前提となる環境を破壊されない権利も含む。当然だ」。
《国のあり方》毎日「折しも超高齢化、成長不全、エネルギー危機、安保環境の激変という戦後最大の転換期を迎えている。どんな国を目指すのかが国民の関心事になりつつある。これまでの論憲で欠落していた国会論戦と草の根議論の連携を深めたい。いずれ衆院総選挙がある。政党レベルで国の形を競演する好機だ」、朝日「いまの世代の利益ばかりを優先して考えるわけにはいくまい。いずれこの国で生きていく将来世代を含めて、『全国民』のために主権を行使していかねばならない。施行から65年。人間でいえば高齢者の仲間入りをした憲法はいま、その覚悟を私たちに迫っているように読める」。(審査室)