2012年 6月26日
無罪同然、検察の完敗

東電OL殺害の再審決定をめぐる社説
証拠全面開示の重要性指摘

東京・渋谷で1997年に東京電力の女性社員を殺害したとして無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告に対し、東京高裁は7日、再審開始と刑の執行停止を決定した。新たなDNA鑑定で別人の犯行の可能性が強まったためだ。検察は高裁決定に異議を申し立てたが、マイナリ元被告は釈放され帰国した。刑事司法の体質を39本の社・論説が批判した。

再審は当然、早期決着を

《無罪同然》読売「『第三者が女性を殺害した疑いがある』 裁判所がこう認定した以上、裁判をやり直すのは当然と言えよう。検察の完敗である。(略)再審請求審で争点になったのは、新たに行われた鑑定の結果だ。女性の体内から採取された精液のDNA型がマイナリ元被告とは異なり、現場に落ちていた別人の体毛のDNA型と一致する、というものだった。殺害現場に第三者がいたことをうかがわせる新証拠だ」、北日本「(再審)決定で示された理由は『別の男が犯人である疑いを否定できない』『新証拠が提出されていれば有罪認定されなかったと思われる』と無罪同然の表現だ。(略)鑑定結果が明らかになったのは昨年7月だった。事件当初に鑑定し捜査を尽くしていれば、二審の判断も違ったのではないか」、毎日「さらに決定は踏み込んでいる。現場の状況や被害者のけがの状態も考慮した上で、『第三者の男が被害女性と性的関係を持った後に殺害した疑いがある』と、マイナリ元被告の冤罪(えんざい)の可能性を指摘したのだ。(略)1審で無罪が言い渡された事件でもある。裁判をやり直すか否かで時間をかけるべきではなく、検察の異議申し立ては疑問だ。裁判所は早期の再審での決着を目指してほしい」。

《証拠隠し》神戸「東電事件では、遺体の付着物からマイナリさんとは異なる血液型反応が事件直後の鑑定で出ていた。その事実は再審請求審まで隠されていた。有罪の立件に有利な証拠だけを開示してきた検察の姿勢には、大きな問題がある」、北海道「自らに不利になる証拠は出さず、被告の有罪を印象づける証拠だけを出す。そうした検察の体質が今回もまた浮き彫りになった。『新証拠が公判に提出されていれば、有罪認定されなかったと思われる』。高裁のこの指摘を検察は重く受け止めるべきだ。あわせて法曹界は今度こそ、証拠の全面開示の実現に全力を挙げてもらいたい」、山陽「これでは不利な証拠を意図的に隠したのでは、との批判も免れまい。再審無罪の布川事件や再審開始の決定が出た福井市の女子中学生殺害事件でも、『証拠隠し』が明らかになったり、再審請求審での新たな証拠開示が新証拠に結びついている」。中日・東京「捜査機関は犯人特定を急ぐあまり、証拠の評価が粗雑になっていないか。無実を訴えているのに、犯人と決め付けては、真実は見えない。検察が被告に有利な証拠を隠せば、公正さを欠く。裁判官も曇りのない目で裁いてきただろうか。(略)もはや問われているのは、検察や裁判所の良心ではないのか」。

「有罪ありき」の姿勢問う

《訴訟指揮》中国「今回、再審開始へと事態が動いた要因の一つに、東京高裁の訴訟指揮が挙げられよう。積極的な証拠開示を促した。それまでの裁判では知り得なかった物証や鑑定結果を表に引っ張り出し、新証拠に導いた。再審請求審を進める上で、多くの示唆を含んでいる」、高知「再審請求審での証拠開示は、裁判所の訴訟指揮に委ねられているのが実情という。それでは裁判官の姿勢一つで再審の判断が大きく左右される恐れもある。あまねく公平に証拠開示を義務付ける制度の導入を考える時だろう」。

《背景・教訓》産経「再審開始の決定を導いたのは、証拠開示の流れと科学の進歩だったといえる。司法改革の一環で公判前整理手続きが導入され、証拠の開示も義務づけられた。再審請求審には証拠開示の規定はないが、高裁は検察側に、積極的に証拠を開示するよう促した。新証拠はこの過程で明らかになったものだ」、朝日「(検察の異議申し立ては)理解しがたい対応というほかない。(略)裁判をやり直すか否かをさらに争っても、検察はもちろん、刑事司法全体への不信を一層深めるだけだ。不祥事を受けて昨年制定した『検察の理念』で、『有罪そのものを目的とする姿勢』を厳しく戒めたのに、あれは口先だけだったのか」、日経「再審をめぐる手続きは今後も続くが、本人が帰国すれば実質的な意味は薄れるだろう。残ったのは、ネパール人男性を拘束して15年の月日を奪ったことと、真犯人はわからず事件は未解決という事実だ。『有罪ありき』の捜査や裁判ではなかったか。社会の関心を集めた事件の突然の『幕引き』はそう問いかけている」。(審査室)

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