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2012年 7月24日
官民共同の「人災」認定
原発の国会事故調報告書をめぐる社説
危機管理の仕組み見直せ
東電・福島第一原発の事故原因などを調べていた国会事故調査委員会(黒川清委員長)は5日、事故を「人災」と断定する報告書を公表。原発関係者の「無知と慢心」を指摘し、住民の命と社会を守る責任感が政府も含め欠如していたと批判した。41本の社・論説から。
地震・津波対策を放置
《人災》福島民友「報告書は『何回も対策を打つ機会』がありながら、規制当局と東電経営陣が『意図的な先送り、不作為、自己の組織に都合の良い判断』に終始したと断罪している。(略)『住民の健康と安全』を最優先する意識の欠如が避難に関する適宜適切な情報発信を妨げ、『不必要な被ばく』を招いたとの事実認定も重い。事故は収束しておらず、いまだ多くの県民が避難を続け、放射線への不安を抱えながら暮らしている。政府は『人災だった』との前提に立ち長期的な対応策を講じるべきだ」、河北「報告書を読むと、暗たんたる思いにとらわれる。住民の安全をないがしろにしてきた日本の原子力推進の姿が、よく分かるからだ。東京電力をはじめとする電力業界と国は、共に原発の安全規制を骨抜きにし、何らはばかるところがなかった。そうしておいて国民向けには『安全だ、安全だ』と神話を振りまいた。官民共同で、驚くべき背信行為が続けられてきたわけだ」、愛媛「東電は大地震や津波を予想でき、対策も取れたのに放置した。指示する機会はあったのに、規制当局は黙認した。なぜか。『規制される』東電が、情報の優位性を武器に『規制する』当局を骨抜きにし、立場の逆転に成功。規制当局は東電の虜(とりこ)になり、監視機能が崩壊していた―。(略)四国電力伊方原発もそうだ。『監視する』県や伊方町は、『監視される』四電の虜になっていないか」。
《官邸》中日・東京「もう一つ、報告書が強調しているのは、官邸をはじめとする政府や東電の危機管理体制がまったく機能しなかった点だ。緊急事態宣言が遅れた官邸や、災害対策本部の事務局としての役割がある保安院は『事故が起きた緊急時の準備も心構えもなく、その結果、被害を最小化できなかった』と指摘した。痛恨の極みである」、産経「政府対応について『官邸政治家は危機管理意識の不足を露呈し、指揮命令系統を破壊した』と当時の菅直人首相らの過剰な現場介入を批判し、住民避難の混乱に関しても官邸などの危機管理機能の不全を指摘した。そうした観点に立ち、提言で原発事故時の政府、自治体、電力会社の役割と責任の明確化と、政府の危機管理の制度見直しを求めたのは、極めて妥当である」、毎日「官邸は東電などから情報を得られず、現場に介入し、指揮命令系統の混乱を生んだ。東電が『全面撤退』を決めた事実はないが、清水正孝社長(当時)が曖昧な連絡に終始したことが官邸の誤解の原因で、東電こそ過剰介入を招いた張本人という。『時の総理の個人の能力、判断に依存しない危機管理の仕組みの構築』が必要との指摘はもっともだ」。
安全強化の出発点に
《注文と懸念》朝日「物足りない部分はある。使用済み核燃料処理の問題や、電力会社の株主・債権者の役割といった点は対象外とされた。何より、国政調査権を有しながら、自民党政権時代にさかのぼった政治の関与や介入についての検証に踏み込まなかったのは残念だ」、北海道「未解明の問題は残っている。東電は地震による重要機器の損傷はなかったとしているが、事故調はあった可能性を指摘した。(略)事故の賠償や除染など、最初から調査の対象外だったテーマも多い。議論をしっかり受け継ぐことが大事である。それは国会の役目だ」、読売「中には見過ごせない内容も含まれている。例えば、国会が規制当局を監視する常設の委員会を設置し、電力会社に対する国会主導の監査体制も整えるよう求めている点だ。国会が、新設される原子力規制委員会の業務を点検するのは結構だが、過度に干渉すれば、支障が生じかねない。公正中立であるべき原子力安全行政が、与野党の政争の具となる恐れもある」。
《どう生かす》福井「炉心溶融を起こした福島1~3号機は運転開始から30年以上、1号機は40年経過。炉型の違いはあるが、県内原発も8基が30年を超え、7月25日段階では3基が40年超となる。保安院は先月末、全原発について敷地内にある断層の再点検を決めた。(略)安全対策はまだ途上だ。大飯原発3、4号機の再稼働も『暫定基準』に基づく。事故調の報告は安全規制強化の出発点にすぎない」、日経「国会が初めて民間人による独立した調査機関を設け、政府の事故調とは異なる立場から調査をし、結果を内外に公表したのは意義深い。(略)事故調の経験は国会の国政調査機能を高める契機となりうる。どう生かすか、国会自身が問われる番だ」。(審査室)